バチカンから見た世界(65) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

人類全体の行方を見据え、長期的なビジョンの上に立脚する政治とは距離を置くポピュリストたち。自国至上主義が第二次世界大戦を誘引したという、歴史の教訓に学ぶ姿勢は見受けられない。7月22日付の共同通信(電子版)はワシントン・ポスト(電子版)を引用しながら、「非核化を巡る北朝鮮との交渉が進展していないことに関し、トランプ大統領が最近、側近らに、いら立ちを示し始めた」と報じた。大統領のいら立ちは、米国中間選挙(11月)が迫っているからだと推測される。さらに、北朝鮮の非核化は、国際社会の協力が欠かせないことも影響している。多国間交渉が展開された場合、各国のポピュリズム政権は、どのように反応するか? 自国の選挙を念頭に置いて、北朝鮮の非核化交渉に対処していくのだろうか?

共同通信(電子版)によると、「迅速な非核化を主張する米側と、段階的な措置を求める北朝鮮の立場は食い違ったままで」、非核化に向けた作業部会の設置についても合意に至らず、ビンセント・ブルックス在韓米軍司令官は、米朝間の外交交渉には「根本的に信頼が欠如している」と発言しているとのことだ。

韓国カトリック教会ソウル大司教区の国家和解委員会は6月23日、同市内で「南北間における和平ミサ」を執り行い、約3000人の信徒たちが参集した。1950年に始まった朝鮮戦争を見つめ、南北両国の和解を祈るミサの中で、ソウル大司教の廉洙政(ヨム・スジョン)枢機卿は、「朝鮮半島の和平と非核化に対し、キリスト教徒の最も有効な武器(手段)は祈りである」との、諸宗教者に共通する確信を表明。「北朝鮮の非核化と朝鮮半島の軍事的緊張の緩和が実現したとしても、それだけでは、この地に真の和平を構築することはできない」とし、南北首脳会談、米朝首脳会議によって開始された“平和構築へ向けた旅”は、国家、政治、個人の利益を超えるものであり、「南北の国民が真に、より人間的な生活を送れることができるように、全ての人々の共通善を求めて継続されなければならないもの」と述べた。

世界教会協議会(WCC)は6月12日、シンガポールでの米朝首脳会談直後に、『米朝和平の新しい章に対する長期間にわたる努力の呼び掛け』と題する声明を発表し、両国の取り組みを歓迎。オラフ・フィクセ・トゥヴェイトWCC総幹事は、「朝鮮半島における、より平和で安全な未来へ向けた重要な最初の一歩を踏み出せたことを神に感謝する」とのコメントを寄せた。南北間の和解に向け、30年間にわたってキリスト教徒同士の出会いを通して努力してきたWCCにとって、朝鮮半島における平和と和解は、現在もまだ長いプロセスの途上にある。