バチカンから見た世界(57) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
「ビジョン2030」と呼ばれる現代化に向けた改革構想を、次々と実行していくサルマン皇太子は、これまで国政に大きな影響力を行使してきた宗教勢力(ワッハーブ派)の介入を制限し、国内でイスラームの穏健化を図る政策を打ち出している。ハイアの組織改革もなされるのではとみられている。
バチカン諸宗教対話評議会議長のジャン・ルイ・トーラン枢機卿を団長とする同評議会使節団は、4月14日から20日までサウジアラビアを訪れた。今回の訪問は、ムスリム世界連盟のムハンマド・アルイーサ事務総長が昨年9月にバチカンを訪れ、ローマ教皇フランシスコと謁見(えっけん)した答礼として実現したものだ。そういう公的理由があるとはいえ、バチカンの重鎮がイスラームの最も重要な聖地とされるマッカ(メッカ)に本部を置く、イスラームに厳格な機関の代表と、信教の自由、諸宗教の平等性、諸宗教間対話について話し合い、宗教的過激主義とテロを非難するといったことは、ワッハーブ派にとっては厳禁だったテーマだけに、過去のキリスト教とサウジアラビアのイスラーム(ワッハーブ派)の関係においては想像もできなかった出来事だ。
懇談の席上、トーラン枢機卿は「われわれを脅かしているのは、文明の衝突ではなく、無知と過激派の衝突だ」と強調。「共生を脅かす第一の原因は無知であり、出会い、話し合い、共に何かを建設することは、他者と自己の発見になる」と述べ、諸宗教対話・協力の重要性を訴えた。また、「(中東の)聖地やローマ、そして他の地域にあるキリスト教の聖域、世界に散在する巡礼地は、私たちの兄弟姉妹であるイスラーム教徒と諸宗教の信徒たち、加えて宗教をも持たない善意の人々のために開放されている」と呼び掛け、宗教的過激派の問題に真っ向から挑戦していく意向を表明。「自らの(宗教)ビジョンに合わない人々を不信仰者と定義し、(自身の)信仰の純粋さを守るために、不信仰者として人々に改宗を迫るか、応じなければ始末するかの道しか選ばない」として、宗教の名を借りた暴力と宗教的過激派を強く非難した。
これまで、国内ではワッハーブ派の信仰しか認めてこなかったサウジアラビアで上記のような対話ができたことを、バチカンでは「歴史的成果」という言葉を挙げて伝えられている。