バチカンから見た世界(39) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

国際ステーションのクルーと対話する教皇

地上から約400キロ上空の軌道を秒速10キロで旋回する国際宇宙ステーション(ISS)。現在、米国(3人)、ロシア(2人)とイタリア(1人)の6人の宇宙飛行士が、第53回のミッションを遂行している。

10月26日午後3時(イタリア時間)、米国のヒューストン宇宙センター経由でバチカンと同ステーションがビデオ中継で結ばれ、ローマ教皇フランシスコと宇宙飛行士たちの間で、対話が行われた。

教皇はまず、ダンテの『神曲』の結末部分に記された「太陽と他の星々を動かす愛」を引用しながら、「宇宙飛行士にとって、宇宙を動かす愛の力の存在をどう思うか」と質問を投げ掛けた。この質問は宗教的で、法華経が説く宇宙の大生命としてのブッダの慈悲、天台宗の一念三千の世界、華厳経の「宇宙に存在するものは……無限の関係性の中に成り立っている」といった、仏教の根底的で壮大な宇宙観にも通じるものだ。

©バチカン日刊紙「オッセルバトーレ・ロマーノ」

質問に対し、ロシア人宇宙飛行士のアレクサンドル・ミスルキン氏は、宇宙ステーションでここ数日間、フランスの飛行士で小説家のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの『星の王子さま』を読んでいるとし、言葉を引用。同書には「地上の草木や動物を救うために自身の命を犠牲にする」というストーリーが記されてあり、「愛とは、本質的に、他者のために、自身の生命を捧げることを可能にするものだ」と答えた。教皇は、「あなたたちロシア人は、その血と伝統の中に、強いヒューマニスティックで宗教的なものを持っている」と答え、ミスルキン氏を称賛した。

また、「天文学は、宇宙の際限のない広がりを教えてくれるが、果てのない宇宙空間での体験に照らして、宇宙における人間の存在をどう思うか」との教皇の質問には、イタリア人のパオロ・ネスポリ氏が回答。「私は技術者であり、機械や実験の世界の人間だが、宇宙ステーションでの仕事の目的は、私たち人間の存在について知り、知識を蓄積し、私たちを取り巻く環境について知ることだ」と述べた。

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