食から見た現代(23) 給食センターで“給食”を食べる子どもたち  文・石井光太(作家)

さらに地元の医師会にも力を借りた。医師会の会合に市の職員が出席して事業の説明をしたところ、特に小児科医からの関心が高かった。彼らは体調不良で受診してくる不登校の子どもに事業を紹介してくれた。

安齊氏は話す。

「医師会は、子どもへの声かけだけでなく、食材料費として寄付までくださっています。地域の方のエールに大変感謝しています。

給食センターでは、各学校の児童・生徒数に合わせた数しか給食を作っていません。最初は何人来るかわからなかったので、給食センターで予備のために少し多めに作っていた給食を不登校の子どもたちに提供していたのですが、だんだんと訪れる子どもの数が増えたことで、それだけではすべてを補うことができなくなりました。

そこで医師会からいただいた寄付を食材費として充てることで、この事業用に安定して給食を作ることができるようになったのです」

不登校になる子どもは、初期の頃に体調不良を訴え、小児科や精神科にかかることが多い。そのため医師は間近で子どもたちがなす術もなく不登校に陥っていく姿を歯がゆい気持ちで見ていることがある。そうした苦々しい体験が、医師会を動かしたのかもしれない。

 

現在、八王子市の不登校の食支援は、子どもたちに給食センターに来てもらい、おいしい給食を食べてもらうことを目的としている。

担当の事務系の職員と栄養士が子どもたちを迎え入れた後、その日の献立や食育の話をし、各々好きなように給食を食べてもらうだけだ。その後、センターに並べられている本を読んだり、担当の職員と雑談したりすることもあるが、ほとんどが遅くとも午後2時までには帰宅する。

安齊氏は言う。

「給食センターに来てくれた子を無理に次の場所につなぐのではなく、まずは、子どもたちにとって居心地の良い場所になってほしいと願っています。

子どもたちの中には『自分の好きな給食の献立だから、家の外に出てみよう』と思う子もいます。給食が外出の動機になる。栄養バランスの摂れた給食を食べてもらう。それがもっとも重要なことなのです」

不登校になった子どもがいったん家にひきこもるようになると、昼夜が逆転して生活リズムが乱れ、運動不足から食欲が大幅に減退することが珍しくない。給食が外出の理由になれば、その悪循環を食い止めることができるだろう。

ゆくゆくはそれぞれの子どもの状況に応じて給食センターを拠点に、第三の居場所へつないでいくことも考えているらしい。安齊氏によれば、そうした動きも出てきているという。

「給食センターでは、地域の児童館に『出張児童館』をしてもらっています。児童館の職員が週1日くらいのペースで食育ルームに来て、給食が終わった子どもたちと工作をしたり、遊んだりするのです。そこで信頼関係ができ上がると、児童館に行くことにつながるので、日中の対応や相談をしてもらえる。

給食センターはあくまで給食を作る場なので、専門的な支援をすることはできません。ただ、ここがハブとなって次の居場所につないでいくのは可能です。子どもたちの一人ひとりの状況に合わせて、これからは、そういう取り組みも少しずつ増えていくと思います」

子どもたちの中には、ここが支援の場ではなく、食事の場だからこそ来ているという子もいるだろう。そういう意味では、無理に支援機関になるのを目指す必要はない。大切なのはどれだけ多様な受け皿があるかということなのだ。

食支援はまだスタートして3年にも満たないが、最近は各自治体からの視察が絶えないという。全国的に不登校が増加している状況では、どの自治体もこれまでとは違った取り組みが求められているのだ。

実際に東京でも八王子市に近い立川市、府中市などでは八王子市を模した同じ食支援事業がスタートしているし、兵庫県朝来市のような関西地区にも広がっている。既存の施設を利用して、予算をかけずにできるため、着手しやすいようだ。

2024年度でいえば、給食センターに訪れた147人のうち同年度中に1日でも登校できるようになった子が23人いたという。2年、3年というスパンで見ていけば、不登校を解消できる子の数はさらに増えるに違いない。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『遺体』『浮浪児1945-』『蛍の森』『43回の殺意』『近親殺人』(新潮社)、『物乞う仏陀』『アジアにこぼれた涙』『本当の貧困の話をしよう』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(文藝春秋)など多数。その他、『ぼくたちはなぜ、学校へ行くのか。』(ポプラ社)、『みんなのチャンス』(少年写真新聞社)など児童書も数多く手掛けている。最新刊に『傷つけ合う子どもたち 大人の知らない、加害と被害』(CEメディアハウス)。

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