食から見た現代(23) 給食センターで“給食”を食べる子どもたち  文・石井光太(作家)

写真はすべて「八王子市教育委員会学校教育部学校給食課」提供

今年も、文部科学省の国公私立の小中学校に対する調査で、不登校の児童・生徒数が過去最高を更新した。12年連続の増加で、2024年度は小中学校合わせて35万3970人となっている。

不登校の子どもが増加するGW前後や、2学期の開始前後には、メディアに「学びの多様化」「嫌なら学校へ行く必要はない」「個性の尊重」という言葉が示し合わせたように踊るのが風物詩となりつつある。

もちろん、それはそれで間違いではない。しかし、これまで私が不登校の子どもや家族と向き合っていて感じたのは、彼らは必ずしもメディアの言葉に首肯し、現状を楽観的に受け止めているわけではない事実だ。

子どもの中には「行きたいけどどうしていいかわからない」ともがき苦しんでいる子もいるし、親の中には出口の見えない状況に疲弊している人もいる。これが長期化することによって崩壊した家庭も見てきた。

一部の人は解決策として“第三の居場所”を挙げるが、そこへつながるのは容易ではない。そもそも子ども食堂や行政が用意する施設は、学校が授業をしている時間帯にはやっていないことが大半だ。フリースクールにしても、一つひとつ種類や目的が異なるので、その子に合ったところを見つけるのは難しいし、月謝も高額だ。

そんな状況の中、東京都八王子市が給食センターを利用した新しい不登校支援を行っているという話を耳にした。給食を提供することで、不登校の子どもたちを受け入れているというのである。

 

八王子市には、「はちっこキッチン」と呼ばれる給食センターが5カ所ある。ここで調理された給食が、毎日市内の小中学校へ運ばれていく。

給食のメニューには、様々な工夫が施されている。チャーハン、スパゲティ、麻婆豆腐など定番のメニューがある一方で、中学生が考案したバランス献立、グローバル社会の多様性を知るための外国料理、八王子の歴史文化が日本遺産に登録された記念に作られた「高尾山御膳」なども提供している。これらによって、自分たちが生まれ育った地域のことや世界の文化のことを学んだり、経済や世界情勢と食の関係性に関心を持ったりしてほしいという思いが込められているのだ。

5カ所の給食センターで、毎日午前11時30分~午後1時まで行われているのが「不登校の食支援」である。市内の小中学校に通えない子どもたち向けに、給食を提供しているのだ。小学生は大人が同伴する必要があるが、中学生に関しては事前連絡なしでの1人での訪問も認めている。

給食センターで子どもたちを迎えるのは、ここで働く事務職の職員と栄養士だ。彼らが子どもたちを招き入れ、30~40人を収容できる食育ルームでその日作られた給食を出すのだ。

食育ルームには音楽や動画が流れており、他人とかかわることに不安を抱く子のためにテーブルに仕切りも設けられている。子どもたちはここで給食を食べたり、職員と雑談をしたりして過ごすのである。

八王子市学校給食課の安齊祥江氏(52歳)は話す。

「中学生の場合は多くの子が1人でやってきますね。小学生は親だけでなく、おばあさんに連れられてくる子もいます。

私たちは『よく来たね!』『またおいで!』と迎え入れて給食をおいしく安心して食べてもらえることに注力して、その子の抱えている問題について積極的に言及するようなことはしません。ここは不登校を解決することだけを目的とした場ではなく子どもにとって安心できる場所、温かい給食を食べてもらう場なのです。まずは彼らに家の外に出て、栄養満点の給食を一人でも多くの子に食べてもらいたいというのが私たちの願いなのです」

現在は共働きの家庭が多いため、不登校になった子どもは必ずしも親に毎日昼食を用意してもらえるわけではなく、毎日似たようなインスタント食やコンビニの弁当で空腹を紛らわしている子も少なくない。それでは育ち盛りの子どもがバランスよく栄養を摂れるか心許ないし、親もそれを危惧している。この事業が目指しているのは、給食によってそうした子どもたちの胃袋を一杯にすることなのだ。

安齊氏はつづける。

「初めて来る時はハードルが高いかもしれませんが、1度来ればリピーターとなってくれる子は多いですね。子どもたちはやっぱり好みの給食を食べたいらしく、その日の献立によって参加者が多い日と少ない日があります。人気メニューは、ミートソーススパゲティ、カレーライス、ハンバーグ、揚げパンなどです。逆に和食の日なんかは子どもがあまり来なかったりしますので、私たちもその日の献立によってどれくらい給食を用意するか決めることもあります」

こうした取り組みのお陰で、支援事業がスタートした2023年度には給食センターの利用者が64人、905回だったのに対し、翌年度は147人、1721回にまで倍増している。

 

八王子市の不登校の食支援がはじまったのは、2022年からだった。

2019年まで、八王子市の中学校では全員給食ではなく、各々(おのおの)で弁当を持参するか、外部の弁当を発注するかの選択方式だった。それを20年から段階的に給食センターで作った給食を提供することにしたのである。まず市内に2カ所の給食センターがオープンし、21年以降、新たに3カ所ができた。

その年度の1月、給食センターで市民向けの食事試食会が開催された。ここに訪れていた教育長の安間英潮氏が、ふと次のような言葉を口にしたのだ。

「不登校の子どもたちは、この給食を食べることができないんですね。それが残念です」

市では教育長の意をくみ取って、給食センターで不登校の子ども向けに給食を提供するサービスを開始することにしたのである。

この事業に一定の需要があるのはわかっていたが、問題はどのように子どもたちを呼ぶかだった。まず市が考えたのは、学校経由で子どもにチラシを渡すことだった。

八王子市では、不登校の総合対策として「つながるプラン」を行っており、各校の教員によって子どもたちと学校との関係性が切れないようにしている。市はそれを利用して学校側から子どもたちに「招待状」を送ったのである。

取り組みが広がるうちに横のつながりができ、市内のフリースクールにも協力を仰いだ。フリースクールでは原則として給食を出すことはない。そこで給食が好きな子どもがいれば声をかけてほしいと頼んだのだ。フリースクールの中には、職員が保護者の代わりに給食センターへ連れてくるなど協力してくれるところも出てきた。