食から見た現代(13) 夜のフードパントリー〈後編〉  文・石井光太(作家)

石川氏の話だ。

「フードパントリーが行っているのは、食糧の提供だけではありません。そこで困難を抱える女性たちとつながり、いろんな話をすることによって食糧以外の相談も受けています。

こうした取り組みの中でよく耳にするのは、母親たちからの『子どもに障害があってどうしていいかわからない』という悩みです。子どもと話が通じないとか、他の子と衝突してしまうとか、多動の傾向があるとかです。不登校になって一歩も外に出ようとしないみたいな話もあります。母親たちはずっと独りで抱えていた悩みを私たちに打ち明けてくるのです」

夜の仕事をしている女性は、社会的に孤立していることが少なくない。そのため、長らく悩みを一人で抱えてパンク寸前になっている人も一定数いるのだそうだ。

石川氏はつづける。

「私たちとしては、こうした母親たちの話し相手になるだけでなく、同じような経験をしたスタッフにつないだり、お母さん同士で気軽に話し合えるような関係作りをしたりするようにしています。深刻な場合は、支援団体へつなぐこともある。食料支援は、あくまでも全体の支援の入り口なのです。フードパントリーの活動をきっかけに、母親の抱えている悩みに立ち入り、みんなで生活を支えていければと思っています」

夜の仕事をしている女性が、保育園や学校の別の保護者にプライバシーを打ち明けて付き合うのは難しい。前編で見たように、元来それが難しい女性が夜の仕事に従事しているという現状もある。

それを踏まえれば、ハピママメーカープロジェクトのように、それに特化した支援団体が存在する意味は大きいだろう。ここであれば、他では話せないことを話せたり、得られない支援を得られたりするといったことが可能だからだ。

これから数年で、今の社会状況が劇的に改善されるとは思えない。そうした中で、このプロジェクトはどのような方針で活動をつづけていくのか。

石川氏は話す。

「夜の仕事をする女性を支援する団体って、最終的な目標を『足を洗う』ところに置くことが多いです。水商売や風俗を辞めさせるのがゴールということ。でも、経験者として思うのですが、それってすごく難しいことなんです。彼女たちが抱えている心の病気だったり、障害だったりはそのままなのに、昼職に就けって言ってもなかなかうまくいきません。そしてそれらのハンディはちょっとやそこらで改善するようなものばかりじゃない。

そう考えた時、私としては風俗で働いていてもいいから、子どもをちゃんと育てられるような環境を作ったりする方が先決じゃないかなと思うんです。昼職だけやって倒れたら子どもも共倒れになってしまいます。それなら風俗で働きつつ、ちゃんと支援を受けたり、相談相手を作ったりして、親子共々健康に暮らした方がいい。私としては選択肢を増やすことで、一人ひとりがちゃんと生活していけるような状況を作りたいと思っています」

世間では、夜の仕事をする女性に対して、自己責任論を含めていろんな意見があるのは百も承知だ。

ただし、彼女たちの子どもには、何の責任もなければ、罪もないというのは衆目の一致するところだろう。さらに彼女たちの子どもがハンディを抱え、生活に困窮しているのだとしたら、手を差し伸べて改善の一手を打つのは社会の責務といえる。

だが、夜の仕事をする女性たちへのアプローチは一朝一夕でできるほど簡単なものではない。それゆえ、ハピママメーカープロジェクトのような専門性を持った団体が必要になるのではないだろうか。

プロフィル

いしい・こうた 1977年、東京生まれ。国内外の貧困、医療、戦争、災害、事件などをテーマに取材し、執筆活動を続ける。『神の棄てた裸体』『絶対貧困』『遺体』『浮浪児1945-』『蛍の森』『43回の殺意』『近親殺人』(新潮社)、『物乞う仏陀』『アジアにこぼれた涙』『本当の貧困の話をしよう』『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(文藝春秋)など多数。その他、『ぼくたちはなぜ、学校へ行くのか。』(ポプラ社)、『みんなのチャンス』(少年写真新聞社)など児童書も数多く手掛けている。最新刊に『ルポ スマホ育児が子どもを壊す』(新潮社)。

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