カズキが教えてくれたこと ~共に生きる、友と育つ~ (10) 写真・マンガ・文 平田江津子

皆に支えられて臨んだ高校受験

学校祭が終わると高校受験シーズンに突入です。普通学級で過ごしてきたカズキは、自然な流れでみんなと同じく普通科高校の受験に挑むことに。しかし全国的にみると、普通科高校を希望する、特に知的障害のある子の受験に関して、定員割れにもかかわらず不合格になるという事例があり、ここにも“高い壁”がありました。

カズキ、そして曽我部昌広先生と共に定員割れをしている普通科高校を中心に見学、相談に回りました。曽我部先生が自作した、カズキの中学校生活を写した動画のDVDを高校側に渡し、「カズキは素敵なクラスづくりに貢献しますよ!」と猛アピール。しかし高校側はそのようなことよりも、単位がとれるのか、高校生活が成り立つのか……と、終始重苦しい雰囲気での対応がほとんどでした。

後日、見学に行った一つの私立高校から、カズキの受験を断る連絡が中学校に入りました。そのことを家族で話題にした時、カズキの部屋からすすり泣く声が聞こえたのです。この時、私は親として、カズキの納得のいかない気持ちやみんなと高校へ行きたい意思を受け取って、伴走していこうと心に決めました。

「オレたちは中学校でカズキと楽しく学校生活を送れているのに、なぜ高校は拒否するのか。こうなったら、カズキを絶対に合格させるぞ!」――そんな悔しさをもって、クラスメイトたちは受験までの一カ月間、面接官役や介助者役を自ら買って出て、毎日カズキの面接練習に付き合ってくれたのです。

高校側も初めての経験です。カズキの選んだ普通科高校(夜間定時制)の教頭は、私たちの思いに真摯(しんし)に耳を傾けてくださいました。受験を可能にする方法や工夫、また合格後の学校生活を見据えた配慮についてまでも、私たち夫婦やカズキの関係者と膝を突き合わせて対話を重ね、受け入れ体制を形作ってくださいました。

また、全国の市民団体や個人の方たちが「カズキ高校受験応援団」を結成してくださいました。北海道教育委員会へ出向いてカズキの受験に配慮要請をし、そして私たち家族のみならず、高校側の不安をも払拭(ふっしょく)するような支えにもなってくださいました。

結果は、合格!

カズキの仲間たち、全国の応援団の方々から驚きと喜びの声が湧き上がりました。

今の時代、「健常」の子に「なぜ普通科高校を受験するの?」と尋ねる人はいないと思います。しかし重い「障害」がある子には、普通にそう尋ねてしまうのが、今の世間に漂う「当たり前」です。そこに、小さいながらも風穴を開けることができたと感じます。想像をはるかに超えた多くの方たちからの応援と祈りを頂いたあの時の感謝と感動は、今の私のインクルーシブ教育推進に向けた原動力となっています。

プロフィル

ひらた・えつこ 1973年、北海道生まれ。1男3女の母。立正佼成会旭川教会教務部長。障害のある子もない子も同じ場で学ぶインクルーシブ教育の普及を目指す地元の市民団体で、同団体代表である夫と二人三脚で取り組みを進めている。