第42回庭野平和賞贈呈式 イスラーム社会で男女平等を目指す団体「ムサーワー」が受賞(動画あり)

庭野名誉会長(左)から賞状を受け渡された「ムサーワー」のアンワール理事長(中央)、ミル=ホセイニ理事(右)

公益財団法人庭野平和財団による「第42回庭野平和賞」贈呈式が5月14日、東京都港区の国際文化会館で行われた。受賞したのは、2009年にマレーシアで創立された国際NGO「ムサーワー(Musawah)」。イスラームの教えをもとに男女平等や女性の人権擁護などに向けた提言活動を展開している。当日は、宗教者や識者ら約150人が見守る中、団体の代表者である共同創立者のザイナ・アンワール理事長、ジーバ・ミル=ホセイニ理事に、庭野日鑛名誉会長から賞状などが手渡された。

イスラームの教えは、唯一神アッラーの啓示の書「クルアーン」と、預言者ムハンマドの言行録「ハディース」が中心となる。この二つの聖典を法源として、法学者らが時代背景や各地の慣習に即して生活規範となるように体系化したものの総体をイスラーム法「シャリーア」と称する。

中でも、婚姻や相続など家庭生活の規律を定めた「家族法」は、聖典の言葉の解釈によって内容が変化する。現在、50以上の国々で家族法は適用されているが、イスラーム社会では男性中心の家父長制が受け継がれてきたため、保守的な国々を中心に、イスラームの名のもとに男性が女性に服従を求めるなど人権を侵害する内容が少なくない。

当日の様子(クリックして動画再生)

受賞団体のムサーワーは、イスラームの教えは公正であるにもかかわらず、教えの解釈によって 家族法に女性差別が存在するという現実に疑問を抱いたザイナ・アンワール理事長をはじめとする12人の女性活動家らが、ムスリム(イスラーム教徒)の家庭に平等と公正をもたらすことを目的とし、2009年にマレーシアで創立した。「ムサーワー」はアラビア語で平等を意味し、現在、アジアや中東、アフリカなどの学者、法律家、政策立案者らが集う。40カ国以上の団体と協働し、ムスリム家庭の男女平等に関する本の出版、クルアーンの解釈や法学的見解の違いに関する教育活動などを通し、女性たちが各地で声を上げて団結し、女性差別を含む家族法の改正に向けた活動ができるよう支援している。また、国連が主導する女性差別撤廃に向けた取り組みにも積極的に関わる。

贈呈式では、庭野平和賞委員会のムハンマド・シャフィーク委員長による選考結果の報告後、ムサーワーのアンワール理事長とジーバ・ミル=ホセイニ理事に、庭野日鑛名誉会長から賞状と副賞として顕彰メダル、賞金2000万円(目録)が贈られた=写真。

次に、庭野名誉会長があいさつに立ち、これまで世界の諸宗教指導者との対話を通して感じた普遍の真理とは、「真正の宗教は、本来、世界は一つであり、生きとし生けるものは、皆等しく尊いと共通して説いていること」と言明。宗教の世界は、比較や競争のない安心の世界であり、各自の尊厳を互いに自覚して合掌・礼拝(らいはい)し合う世界であると示し、「ムサーワーの皆さまは、そうした宗教の本義を十分認識されているからこそ、この運動に取り組まれているのでしょう」と述べた。

また、「愛」という字は「愛(かな)し」とも読み、子どもを愛するがゆえに先行きを心底から案じ、悲しむ母の心情を表していると説明。「悲しむ」ことは人間の情緒の中で最も尊い働きの一つであり、そうした女性の持つ豊かな心は、生産性、合理性を重んじる競争社会で極めて重要な意味を持ち、「それが生かされてこそ、国や社会が調和し、やがては地域に一つのオアシスが築かれていくのだと信じます」と話し、女性が大切にされる社会の実現に向けて尽力している同団体に敬意を表した。

記念講演でアンワール理事長は、長年、ムスリム女性が差別的な法律や慣習の改革を求めながらも、シャリーアに反することを理由に、「反イスラーム」「信仰からの離脱者」などと非難されてきた歴史を紹介。イスラーム諸国の現代憲法が平等と非差別をうたう一方で、いまだ容赦ない差別がムスリム家族法の中に見られる事実を容認できないと伝え、創立以来取り組んでいる男女平等の実現に向けた活動を報告した。

さらに、「差別的な法律を作ったのは人間であり、神ではありません。問題はイスラームにあるのではなく、女性を同等の価値と尊厳を持つ人間として認めようとしない、政治的意志の欠如にある」と訴え、「この21世紀の世界に、平等なき正義は存在しません。社会の基本単位である家族に正義と平等がない限り、平和はあり得ないのです」と結んだ。

庭野平和賞委員会のメンバーと、受賞団体「ムサーワー」代表のアンワール理事長(右から5番目)、ミル=ホセイニ理事(右から4番目)