「バチカンから見た世界」(164) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
3宗教間の融和なくして中東和平は実現できない(13)―イスラエルは単独で自国防衛できるのか―
イスラエルのネタニヤフ首相は、同国の司法機関から収賄、詐欺、背任などに関する容疑を追及されている。だが、現政権は昨年7月、「最高裁判所の判断を議会の過半数で否決できる司法制度の見直し」を立法化した。ネタニヤフ首相は、「裁判所による権限乱用を防ぐため」との理由を示して改革を正当化した。
この司法改革は、今年の元日に最高裁によって「無効」と判断された。また、「民主主義(の三権分立)の根幹を揺るがし、専制政治につながる」「首相の司法権からの訴追逃れ」として、市民らの大規模な抗議運動の対象となった。3月26日、司法改革の推進に反対していたヨアブ・ガラント国防相を解任する意向(翌月に撤回)が発表されると、抗議運動はさらに激化。国内世論から強い反発を受けたネタニヤフ首相は同27日、改革の推進を凍結すると公表したが、連立を組む極右政党やユダヤ教系政党は継続に意欲的である。ネタニヤフ首相は、改革を中断すれば連立内閣崩壊の可能性につながり、推進すれば国内世論からの猛反対を受けるだけでなく、イスラエルの国際的な孤立を一層深めていくことになる。
さらに、ローマ教皇庁外国宣教会(PIME)の国際通信社「アジアニュース」は11月4日、『ビビ(ネタニヤフ首相の愛称)リークス』と題する記事を掲載。同首相の新たな「政治、司法スキャンダルの可能性」が発覚したと伝えた。イスラエルで最近、首相府や、国家安全保障省の協力者であったエリ・フェルドスタイン氏が、政府の取得したイスラーム組織ハマスに関する機密情報を、英国とドイツのメディアに漏えいした容疑で逮捕されたという。その機密情報は、「ハマスがユダヤ人の人質を、地下トンネルを通してエジプト経由でイランに移送する」というものだった。(後に誤報と確認された)機密情報の漏えいは、「人質解放のためにハマスと和平交渉する可能性を排除」し、ネタニヤフ政権の主張するパレスチナ自治区ガザでのハマス壊滅作戦やレバノンでのヒズボラ掃討作戦を継続することが目的だという。ネタニヤフ首相は、この情報を基に、ユダヤ人の人質解放より戦争の継続を選んだことになる。「アジアニュース」は、「ハマスによって拉致された人質が、戦争という祭壇の上で生贄(いけにえ)にされた」とコメントした。
イスラエルの国民感情に深く関わる人質問題と、世論を分断するガザでの戦争、レバノンへの侵攻。戦争政策に分断されたイスラエル世論に対してネタニヤフ首相は11月5日、ヨアブ・ガラント国防相の更迭を再び公表した。「戦争の指揮に関する意見の相違」が理由だった。