ペイ・フォワード 渡波水産加工業協同組合が石巻教会を通じ、能登の人々を支援
東日本大震災の被災地に寄せられた全国からの真心が、13年の時を超えて能登の地へ。Pay it forward(ペイ・フォワード=恩送り)――。それは3月上旬、立正佼成会石巻教会元外務部長(75)のもとに入った一本の電話から始まった。
その日、元外務部長の携帯電話の液晶画面に表示されたのは、宮城県の職員として漁業関係の仕事に携わっていた時に知り合い、親交を深めてきた渡波(わたのは)水産加工業協同組合の木村安之専務理事の名前。突然の連絡に驚きつつ元外務部長が電話に出ると、木村さんは元日に発生した能登半島地震について切り出した。被害状況を目にし、東日本大震災での自身の被災体験がよみがえったこと、震災後に本会をはじめ多くの支援によって水産業を立て直すことができたこと、組合として少しでも現地の役に立ちたいと考えていること……。こうした思いを組合の理事らと共有し、何度も話し合ったという。
その中で、東日本大震災で被災した漁業を立て直すため、石巻教会を通じ「一食(いちじき)を捧げる運動」の支援を受けたことを振り返り、復興を支えた佼成会を通して、不安な日々を過ごす能登の人々を助けたいと、全会一致で合意したことを伝えた。
木村さんは、「被災地のための寄付金を立正佼成会さんに受け取って頂き、現地の水産関係の支援に役立ててほしい」と元外務部長に懇願した。この申し出に元外務部長は目を洗われる思いがしたという。「想像もしていませんでした。驚きのあまり鳥肌が立ちました」。
本会は東日本大震災の発生後、一食平和基金を通じて、甚大な被害を被った岩手、宮城、福島など各県の自治体や、被災地で復興活動を行うNPO団体などに総額5億円の緊急支援を実施した。このうち石巻教会では、安井利光教会長(当時)や元外務部長、同基金の運営委員らが現地調査を行って支援先を検討。この地域の基幹産業である漁業や海産物の加工といった水産業の立て直しが復興の要になると考え、包括地域内にある水産業の5組合に支援金を寄付した。その浄財は、津波で壊滅的な被害を受けた水産施設の新設や復旧などに充てられ、地域再建の一助となった。
今回の申し出について同組合の林正隆理事は、「震災からの復興に向けて一歩を踏み出すことがどれほど大変か、われわれはあの時、身をもって感じました。今、能登の方々も当時の私たちと同じ思いをしていると思うと、じっとしてはいられません。たくさんの助けを頂いたわれわれがまず支援の一歩を踏み出すことが大事。われわれのエールを込めた支援が、能登の皆さんの一助になれば幸いです」と力を込めた。
3月23日午後、同組合の近藤伸一組合長、木村専務理事、林理事、菅原正浩参事が石巻教会道場を訪問。山﨑哉依教会長、渉外部長(71)、元外務部長が出迎えた。和やかな雰囲気の中で行われた懇談では、一食運動の取り組みや、水産業の現状などが話題に上った。この後、近藤組合長から山﨑教会長に寄付金(目録)が手渡された。
木村専務理事は、「当時は組合員のほとんどが被災し、先の見えない不安な日々を過ごしていた中で支援を頂きました。義援金以上に、食事を抜いた分の食費を献金される全国の会員さんたちの温かい思いが何よりも心の支えで、『私たちも頑張んなきゃ』と希望と勇気が湧きました。心一つにご支援を頂いた思いを今も忘れずに毎日を過ごしています。能登半島の被災状況を見た時、何らかの形でお返しできればという気持ちが組合員たちにあり、今回のお願いとなりました。当時は大変お世話になり、ありがとうございました」と感謝の思いを語った。