バチカンから見た世界(122) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
世界を分断するウクライナ侵攻
英国のボリス・ジョンソン首相とイタリアのマリオ・ドラギ首相が相次いで辞職したのは、今年7月のことだった。両指導者は、ロシアによるウクライナ侵攻を強い口調で糾弾し、武器供給を含めたウクライナへの支援を提唱してきた。
2人の辞職を受け、欧米非難の急先鋒(きゅうせんぽう)として知られるロシア安全保障会議のドミトリー・メドベージェフ副議長は、同国のメッセージアプリ「テレグラム」にジョンソン首相とドラギ首相の写真を並べて掲載。その隣にクエスチョンマークを付けた人影を載せ、「次は誰?」と問いかけて反ロシアを主導する両指導者の辞職を喜んだ。
メドベージェフ氏は、欧州諸国の反ロシア政治勢力に対する批判を続けている。今年6月、ドイツのオラフ・ショルツ首相、フランスのエマヌエル・マクロン大統領、ドラギ首相が、欧州連合(EU)のウクライナへの連帯を表明するため首都キーウを訪問した時も、彼らを「ソーセージ(ドイツ)、蛙(フランス)、スパゲティ(イタリア)の大食漢」と評して蔑視するツイートを投稿した。
さらに、メドベージェフ氏は8月19日、ドラギ首相の辞職を受けて総選挙に向けた選挙活動が展開されているイタリアの国内状況を念頭に入れて、欧州諸国の有権者たちが「ばかな政権(反ロシア)を罰するように」と呼びかけた。翌20日には、ロシアの日刊紙「プラウダ」が、イタリアの総選挙で勝利が予想されている右派連合の主導者で、首相候補にも挙げられているジョルジャ・メローニ氏(イタリアの同胞党)が「ウクライナへの支援と大西洋間での友愛(北大西洋条約機構/NATO)」を主張したのに対して、「首相候補に挙げられているメローニ氏は、混乱の道を選び、イタリアを現状よりもさらに深い危機へと追いやる」と批判。「メローニ氏はもともと、欧州懐疑主義者であったが、今はもうその勇気を無くした」とも指摘した。ロシアによる欧州政界への「内政干渉」とも呼べる介入からは、欧州諸国の政情を混乱させることで、EUの影響力を低下させたり、欧米間に亀裂を生じさせたりすることを企(たくら)むプーチン政権の思惑がうかがえる。