教皇がカナダ先住民に謝罪(海外通信・バチカン支局)

バチカンでカナダ先住民「ファースト・ネーション」の使節団と面会する教皇(バチカンメディア提供)

ローマ教皇フランシスコは4月1日、バチカンでカナダの先住民「イヌイット」「メティ」「ファースト・ネーション」の代表者、彼らに同行したカナダのカトリック司教らと面会し、かつてカトリック教会運営の寄宿学校で起きた先住民の子供に対する虐待について謝罪した。

同国では1831年から1996年まで、15万人を超える先住民の子供たちを強制的に家族から引き離し、寄宿学校での生活を通して西洋文明に同化させる政策が実施された。独自の文化、伝統、言語から切り離し、固有のアイデンティティーを喪失させるという植民地主義的な国策だった。同政府は開校した130に上る寄宿学校のうち、約4分の3の運営をカトリック教会に、残りを他のキリスト教諸教会に委託した。この中で、数千人の子供たちが病気や教師からの虐待などによって死亡したとされる。こうした「暗黒の歴史」に対し同政府は2008年、先住民に公式に謝罪。同国のカトリック教会を含むキリスト教諸教会も謝罪した。

しかし、昨年、同国西部ブリティッシュコロンビア州のカムループス、中西部のサスカチュワン州、クーパー島(10年にペンラカット島に改名)にあった寄宿学校跡から、新たに1000人を超える子供たちの墓標や記録のない遺骨が発見された。国民は大きなショックを受けた。同国のカトリック教会は、「癒やしと和解」「寄宿学校跡での墓地の建設」「先住民に対する教育、文化的支援」を3本柱とする先住民との和解プロセスを推進。その第一歩として、先住民は「教皇による公式の謝罪」を要求していた。

3民族の代表者と同伴のカトリック司教たちで構成された「バチカン訪問使節団」は、3月28日から4月1日までバチカンを訪問。教皇は3月28日にメティ、イヌイット、同31日にファースト・ネーションの代表者と個別に面会。寄宿学校の生存者が訴える苦しみに耳を傾け、「真理、正義、癒やし」を基に「和解」に向けて歩む先住民と司教たちの決意について報告を受けた。

4月1日の懇談で教皇は、寄宿学校での悲劇に対する自身の「憤り、恥辱、苦痛」を表明しながら、「神の赦(ゆる)し」を乞い、「カナダのカトリック司教たちと同様に、あなたたちに謝罪する」と述べた。植民地主義に基づいた寄宿学校での同化政策が、先住民の子供たちを「根こそぎにするものだった」と指摘。「多くの家族が引き離され、あなたたち(先住民の子供たち)のアイデンティティー、文化が傷つけられ、植民地主義のイデオロギーが進歩として標榜(ひょうぼう)する『画一化』の犠牲となった」と過去の過ちを非難した。

さらに、先住民の子供たちが寄宿学校で体験した「苦しみ、窮乏、差別、さまざまな形での虐待」に関する証を、「心の中に深い悲しみを持って耳を傾けた」「憤りを覚えた」と述懐。「過去の記憶や、過ちから学ぶ努力をしなければ問題は解決されないどころか、再び同じことが起きる」と警鐘を鳴らした。

また、カトリック信徒であった教育分野の責任者たちが虐待を行い、「(先住民の)アイデンティティー、文化、霊的価値観に対する尊敬を欠くことによって、あなたたちを傷つけた」とし、それに対する自らの「恥辱と苦痛」を表明。最後に教皇は、よどみなく真理を追究して、先住民たちの傷の癒やしと和解がなされることを求めて、カトリック信徒の先住民たちが「キリストの“おばあちゃん”として崇拝する『聖アンナの祝日(7月26日)』にかけて、カナダを訪問したい」との意向を明らかにした。先住民たちは、教皇の謝罪を「歴史的」と呼び、「必要なことであり、深く評価する」として受け入れた。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)