「ロシア正教を破壊しようとしている」とプーチン大統領がウクライナを非難 政治の問題が宗教に影響(海外通信・バチカン支局)
ロシアのプーチン大統領は2月21日、国民に向けたテレビ演説の中で、ロシア系住民(親ロシア派勢力)が実効支配しているウクライナ東部ドンバス地域の一部の独立を認める大統領令に署名したと発表した。ロシアが一方的に独立を承認したのは、親ロシア派勢力が自ら名付けた「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」だ。
この演説の中で同大統領は、ウクライナ政府がウクライナにあるモスクワ総主教区(ロシア正教)帰属の正教会を破壊しようとしていると非難した。ロシアの通信社「インタファクス」が同日、そのプーチン大統領の発言内容を伝えた。
ウクライナ正教会には、二つの派が存在する。「モスクワ総主教区派」と「キエフ総主教区派」だ。キエフ総主教区派は、ウクライナが1991年にソ連から独立した後、モスクワ総主教区(ロシア正教会)管轄からの独立を求めて誕生した。2019年、キリスト教東方正教会の最高権威であるコンスタンティノープル総主教庁(トルコ・イスタンブール)がそれを承認し、独立を果たした。当然、その独立に反対していたロシア正教会は反発し、独立が決定した時点でコンスタンティノープル総主教庁と断絶した。一方、分裂していたウクライナ正教会の統一に向けた模索が続いたが、モスクワ総主教区派は加わらず、対立が鮮明になった。今回の同大統領の発言は、ウクライナの政権がウクライナ正教会(モスクワ総主教派)の聖職者や信徒を苦しめているとの趣旨だ。具体的には、ロシア系住民が多く住むドンバス地区の正教会であると推測される。
同大統領は、「キエフの政権がモスクワ総主教区の正教会を虐げる準備を続けている」とスピーチ。この発言は、感情的なものではなく、根拠のあることと強調しながら、「ウクライナ政府が冷酷にも、(ロシア正教会の)教会分裂という悲劇を、国政の道具として使っている」と批判した。ウクライナの政権は、「信仰者の権利を侵害する法律を撤廃するようにとのウクライナ国民の要請に応じていない」とも指摘した。さらに、モスクワ総主教区に属するウクライナ正教会の聖職者や信徒たちを追い詰める法案が議会に提出されていると非難した。
ウクライナ正教会のロシア正教会管轄からの独立は、ウクライナとロシアの政治的対立が背景にある。独立は、親欧米派として知られていたポロシェンコ前大統領が強く望んだことといわれている。ウクライナ情勢は緊迫度が増しているが、ウクライナ周辺の情勢に関して、ロシア正教会の沈黙が続いている。
対照的に、ローマ教皇フランシスコは、ウクライナ情勢の対話と祈りによる解決を繰り返し呼びかけている。教皇は2月23日にも、バチカンでの一般謁見(えっけん)の席上、「ウクライナ情勢の悪化に対して、大きな苦しみ、痛みを感じる」と表明。3月2日の「灰の水曜日」(痛悔の日)を「(ウクライナ)和平と断食の日」とするようにと、信仰者、無神論者を問わず、世界中の人々に提唱した。教皇とロシア正教のキリル総主教は2016年、ローマとモスクワ双方から遠いキューバで歴史的な会見を果たしたが、今、2回目の会見の準備がなされている。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)