地球に感謝し、よりよい環境を未来につなぐ 宇宙飛行士・山崎直子氏

宇宙空間での体験を詳述する山崎氏

2010年に国際宇宙ステーション(ISS)に滞在しました。無重力に身を置いた時に意外だったのが、懐かしいような思いをしたことです。なぜなら体が浮く感覚が、胎内にいた時を思い出すからと表現する方もいます。また、私たちの体はもともと宇宙のかけら、つまり地球も私も皆、同じ元素でできているからかもしれません。宇宙とは、冒険で行く所というより、ふるさとを訪ねに行くような感じがしました。

国際宇宙ステーションでは13人で仕事をしました。極限ともいえる状態で、国籍や文化が違う者同士が暮らすには、人として基本的な行為が大切でした。例えば使ったものは元の場所に戻す。置き場所を変える場合は、仲間にひと声かける。さらに、「おはよう」「ありがとう」「ごめんなさい」といった挨拶は、チームワークにとって大切です。

食事は、朝や昼は慌ただしいので、それぞれで取るのですが、夜は不思議と皆で取るのが暗黙のルールになっていきました。このシンポジウムで先ほど、山極先生(人類学・霊長類学者の山極壽一京都大学前総長)が「共食」について話されましたが、私たちも各国の宇宙食を持ち寄って、何げないひとときを過ごすことが人間関係の潤滑油になっていました。

「祈り」も大切にされています。イスラーム教徒の宇宙飛行士が搭乗した時には、宇宙からメッカの方向を指し示すパソコンのアプリケーションを使って祈りを捧げていました。同乗者の一人は、聖書の一節を持ち込んでいました。ロシアでは打ち上げの前に、祝福の儀式が行われます。私も打ち上げ前に、地元の神社でお祈りをしました。日本でもロケットを打ち上げる際に、祈りの儀式をしています。技術と祈りの融合という面があるわけです。

宇宙ではさまざまな実験が行われています。今では、人が1年ほど連続して宇宙に滞在できることが分かっています。農業については、レタスに養分を調整しつつ、光合成に必要な赤と青の光を強めに当てると、地上よりも3倍早く育つことが分かりました。重力環境が変わると同じ遺伝子でも、機能の現れ方が変わります。キュウリは根と芽の境目に「ペグ」という突起がありますが、地上では一つ、宇宙では二つ出ます。

また、人工衛星の観測などで、地球の全ての水量は、地球の重量の0.02%しかないことが判明しました。国際宇宙ステーションでは水はとても貴重で、一人が1日に使える量は3リットルに限られています。でも、それは地球上でも同様です。私たちは大切に使わなければなりません。

国際宇宙ステーションは国際協力によって成り立っています。それぞれの国の立場や情勢があるため、「一枚岩」と言い切れない時もありますが、それでも、協力することは自然なことです。なぜなら外は真空の生きられない世界であり、危機感を共有しているからです。それは地球上でも一緒でしょう。対立や分断が起こっている今こそ、危機を共有し、対話を進めていくことが欠かせないと思うのです。

講演では、ISS内部の様子や宇宙から見た地球などの写真がスライドで紹介された

さて、宇宙を知ること、それは地球を知ることになります。私は地球に戻ってきた時、地球の重力を感じて驚き、そよ風、緑の香りといった、それまで当たり前過ぎて何も感じなかったことに対し有り難さを覚えました。今、コロナ禍によって「当たり前が当たり前ではない」時代ですが、当たり前と思っていたことに感謝することが大切だと思います。

オーロラは、太陽からのエネルギーと地球の磁場との相互作用で現れます。その磁場に守られて、生命(いのち)が育まれてきました。

地球自体には目も耳も手足もなく、その代わりを人間がしているのだと感じています。人間は地球の今を把握して、環境を回復させて未来につなげていく役割を担っているのかもしれないのです。宇宙全体からすれば点でしかない地球で、私たちは喜びと悲しみを感じながら、共に手をとり合って生きています。まさに私たちの心は、全ての生きとし生けるもののためにあります。

地球が誕生した当時、海も、緑も、酸素もありませんでした。その中でシアノバクテリアが酸素を生み出し、それを葉緑体として体内に取り込んだ植物が酸素を多くつくり、やがて、酸素を必要とする動物が生まれ、人間が生まれてきました。

人間は地球を見ることができ、美しいと思えるほどに進化してきました。私たちは、地球を美しいと思える心を持ったことに感謝しなければなりません。

世界宗教者平和会議の皆さまは、(諸宗教協力という)不可能を可能にし、対立ではなく、寛容を推し進められてきました。私も宇宙に関わる立場から、世界平和を模索し続けたいと思います。「Our Heart for All Beings(共にすべてのいのちのために)」の実現を心より願います。

(昨年11月24日、「WCRP創設50周年記念式典・シンポジウム」の基調講演から。文責在編集部)

プロフィル

やまざき・なおこ 1970年、千葉県生まれ。96年に東京大学大学院航空宇宙工学専攻修士課程を修了。同年にNASDA(現・JAXA)に勤務し、2010年、スペースシャトル「ディスカバリー号」によるISS組立補給ミッションに参加した。現在は、内閣府の宇宙政策委員会委員や一般社団法人Space Port Japanの代表理事、アースショット賞評議員などを務める。