南アフリカの平和に尽くしたツツ元大主教 ケープタウンの大聖堂で国葬(海外通信・バチカン支局)

南アフリカで人種隔離政策(アパルトヘイト)撤廃運動を推進して1984年にノーベル平和賞を受賞し、昨年12月26日に90歳で逝去した同国聖公会のデズモンド・ツツ元大主教の国葬が1月1日、ケープタウンにある聖ジョージ大聖堂で執り行われた。

ツツ師の葬儀は、ケープタウンのタボ・マクゴバ大主教が司式した。スピーチに立ったシリル・ラマポーザ大統領は、「ネルソン・マンデラ大統領が南アフリカ民主主義の父であったのに対して、ツツ大主教は、私たちの新しい国家の“霊的な父”であった」と評し、その功績を偲(しの)んだ。また、ツツ師の良き協力者だったマイケル・ヌッタル元ナタル教区主教は、説教の中で、「小柄な体格の人であったが、私たちにとって、道徳的、霊的な巨人だった」と追慕した。

アパルトヘイト下の当時、ツツ師は、反アパルトヘイト運動を展開する「アフリカ民族会議」(ANC)が武力闘争をも辞さなかったのに対し、ANCとは一線を画しながら、言葉(スピーチ)による徹底した非暴力の抵抗運動を主導。国際的には、世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)南アフリカ委員会を通して宗教協力による反アパルトヘイト運動を促進し、後に同委員会の名誉議長を務めた。アパルトヘイトが廃止され、ANC指導者のネルソン・マンデラ氏が94年に大統領に就任すると、アパルトヘイト下での犯罪や人権侵害を明らかにすることで、国民間の和解を進める政府の公聴会「真実和解委員会」の委員長に任命された。

訃報に接した英国国教会のジャスティン・ウェルビー・カンタベリー大主教は、「彼は、黒人として初めてケープタウンの大主教となったパイオニア(先駆者)、『真実和解委員会』のパイオニアだった」と発言し、功績をたたえた。さらに、「彼は巨大なビジョンを持ち、マンデラ大統領と共に、誰にも先駆けて、(南アフリカの民族多様性を表す)虹の国を建国しようとした人物」と評し、「キリストの弟子であることが、彼のあらゆる行動の原動力だった」と強調した。

ローマ教皇フランシスコは昨年12月26日、「人種の平等と、彼の故国である南アフリカにおける和解を通しての福音メッセージに対する奉仕者の訃報に接しての悲哀」を表明する弔電を送付した。教皇は2020年10月3日、イタリア中央部にある聖都アッシジで回勅『すべての兄弟たち』に署名した時、「普遍的友愛について考察する中で、特に、アッシジの聖フランシスコ、また、カトリック信徒ではない兄弟たちであるマーチン・ルーサー・キング、デズモンド・ツツ、マハトマ・ガンジーからもインスピレーションを受けた」と述べていた。

世界教会協議会(WCC)のイオアン・サウカ暫定総幹事は昨年12月26日、「神が90年間にわたり、デズモンド・ツツ大主教を私たちに与えてくださったことに感謝する。彼は、その生涯と功績を通し、あらゆる人間の尊厳性と自由の象徴となった」との声明文を公表した。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)