WCRP日本委とJAR 5年目を迎えた「シリア難民留学生受け入れ事業」 24人が来日し、定住に向け支援進む

2017年2月に大聖ホールで開かれた記者会見。JARの石川えり代表理事が、民間主導による国内初の難民受け入れ事業を説明した

世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)日本委員会と認定NPO法人「難民支援協会」(JAR)は2017年から、シリア難民を留学生として受け入れ、日本での定住につなげる共同事業を展開している。民間主導によるシリア難民の受け入れは、日本で初めての取り組みとなる。翌18年からは、この事業に協力する大学も加わり、支援の輪が広がっている。これまでの4年間で来日した留学生は計24人。現在、日本語学校を卒業した留学生6人が大学に、1人が大学院に進学し、2人が企業に就職した。

シリアでは2011年3月15日、同国南部ダルアーで起きた反政府の抗議行動をきっかけに内戦が勃発した。これにより、現在も人口の半数以上にあたる1200万人以上が国内外で避難生活を送り、同国は世界で最も多い難民発生国となっている。隣国トルコには約360万人が流入。このうち、高等教育の機会を得られずにいる若者は、50万人以上といわれる。

15年末、国内の日本語学校からJARに、「授業料を無償にしてシリア難民を受け入れたい」との相談が寄せられた。その後、JARでは難民を積極的に受け入れているカナダの現状を学び、同国で難民の受け入れを行っている民間団体の取り組みを視察。さらに、トルコに逃れたシリア難民への聞き取り調査を行った。そこで、日本への渡航を望む若者が少なくないとの情報を得たJARは、WCRP/RfP日本委と協議し、共同でシリア難民の留学生受け入れ事業をスタートした。

同事業は、人道的な観点から就学の機会を奪われた難民の若者に教育の機会を提供し、進学や就業につなげ、難民の安全と定住生活を図ることが目的。対象は、トルコに避難しているシリア難民で、日本で企業に就職する年齢を考慮し、アラブ圏の高校または大学の卒業資格を有する26歳以下(原則)としている。応募者の中から、選考委員会による書類審査と現地での面談(新型コロナウイルスの流行により、現在はオンラインでの実施)などを経て選ばれた候補者を、日本語学校が最終的に面接して留学生が決定する。

事業の初年には、212人が応募し、6人が来日。これまでの4年間で、宮城、千葉、東京、京都、沖縄の5都府県の日本語学校が受け入れた留学生は20人に上る。

留学生は来日後、日本語学校(2年間)に通いながら、「留学」ビザ(査証)で認められている範囲内(週28時間)でアルバイトに従事する。単に生活費を稼ぐだけでなく、仕事を通じて日本語を習得するとともに、日本社会の文化や生活習慣などに慣れるためだ。

2017年にトルコで応募者の面接を行うJARの折居氏(当時、左)とWCRP/RfP日本委の篠原祥哲事務局長(中央)=JAR提供

現在、日本語学校を卒業した留学生のうち、6人が大学に、1人が大学院に進学。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の難民高等教育プログラム(RHEP)で奨学金を得て、それぞれの専門分野の学びを深めている。また、来日前に大学を卒業していた2人が企業に就職し、日本社会で活躍している。

一方、日本語学校での受け入れに加え、18年からは国際基督教大学(ICU)の協力を得て、日本語学校を経ずに直接大学に入学するプログラムも始まった。これまでに4人がICUに入学した。

全留学生が希望する学術分野は、義肢装具の開発やIT技術、理学療法といった理工学分野のほか、通訳・翻訳、心理学、平和学など多岐にわたる。看護やリハビリテーションの医療分野を志す人も増えている。

同事業に対し、留学生からは「経済的サポートだけでなく、私たちのことを親身に考えてくださっている無形の援助を感じました」「この助けのおかげで、私は多くの問題を解決することができました」「ありがたく頂いたこのチャンスを絶対に逃しません。目標にたどり着くまで頑張ります」といった感謝や喜びの声が聞かれている。

5年目を迎えた今年は、日本語学校とICUで新たに計7人の受け入れを予定している。

なお、さらなる事業の発展を目指し、同事業はJARの協力により7月7日に設立された一般財団法人「パスウェイズ・ジャパン」に移管される。JARで事業を推進してきた難民受入プログラムマネジャーの折居徳正氏が代表理事に就き、シリア難民の保護と支援を継続していく。

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