「第22回庭野平和賞」受賞者のハンス・キュング博士逝く(海外通信・バチカン支局)

2005年、京都で行われた庭野平和財団シンポジウムで講演するキュング博士

グローバル化時代の道徳的基盤、行動指針を示す「地球倫理」を提唱し、2005年に「第22回庭野平和賞」を受賞したドイツのカトリック神学者であるハンス・キュング博士が4月6日、同国チュービンゲンの自宅で逝去した。93歳だった。

キュング博士は1928年、スイス・スルゼーで生まれた。ローマ教皇庁立グレゴリアン大学で哲学、神学の修士号を取得。カトリック司祭に叙階された後、パリのソルボンヌ大学とカトリック研究所で研究を続け、57年に神学博士号を取得した。60年から96年まではドイツのチュービンゲン大学で神学部教授を務めた。

62年に始まった第二バチカン公会議では、ローマ教皇ヨハネ二十三世によって公会議の決議事項を吟味する公式神学者に任命され、その任務を65年の閉会式まで遂行した。以後、諸宗教対話・協力に尽力。あらゆる宗教の類似性、共通性を研究し、宗教の普遍的価値を論じ続けた。その活動は世界的に注目を集め、「対話の神学への先駆者」「普遍宗教確立への先駆者」と評された。

キュング博士は「諸宗教間の平和なくしては、諸国家間の平和はありえない。諸宗教間の対話なくしては、宗教間の平和はありえない」と一貫して主張。さらに、「世界の諸宗教の教えには普遍的倫理がすでに存在する」として、その倫理をより現実化、具体化し、あらゆる人々の道徳的基盤となる「地球倫理」を提唱した。93年、米国・シカゴで開催された「万国宗教会議」の席上、同博士が草稿した『地球倫理宣言』が発表され、採択された。

97年、元国家元首、首相で組織する「インターアクション・カウンシル」(OBサミット)が国連人権宣言50周年に際して発布を提唱した「人間の責任に関する世界宣言」を起草。同年、国連事務総長から世界20人の「賢人グループ」の一人に任命された。世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)国際委員会の共同会長も務め、諸宗教対話・協力の推進、諸宗教の智慧(ちえ)に基づいた「地球倫理」の提唱など、長年にわたる平和構築の努力と功績が高く評価され、2005年に第22回庭野平和賞を受賞。来日した際、庭野日鑛会長(当時・庭野平和財団総裁)と対談した。

一方、第二バチカン公会議後の刷新運動の続くカトリック教会内において、キュング博士は70年に、教皇の不可謬権(教皇はカトリック教会の教義に関して決して誤りえない)に関する改革を主張し、バチカン教理省と対立することとなり、79年にカトリック大学の教職から追放処分を受けた。しかし、2005年、教皇に選出されたばかりの教皇ベネディクト十六世(現・名誉教皇)と長時間にわたり懇談し、さらに、同博士が「カトリック教会の春」と呼んだ教皇フランシスコの選出後には、教皇と書簡を交わし、和解の道を歩んだ。近年は、パーキンソン病と闘いながら研究を続けていた。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)