心ひとつに――東日本大震災から10年 石森利江子石巻教会長に聞く
毎月11日に被災地で慰霊供養を厳修 亡き人との絆を大切にする祈りの深さ
私が石巻教会に赴任した2016年末は、まだ仮設住宅に身を寄せている方もいらっしゃり、転居先が分からない方も少なくありませんでした。生活が不安定な状況の方が多い中、サンガ(教えの仲間)が一丸となって明るく前向きに精進されている姿が強く印象に残っています。
震災の後、前任の安井利光教会長さんのもとで布教に力が注がれました。ほとんどの方が自身も被災者でありながら、「まず人さま」の心で苦しむ人の元に駆けつけ、思いを寄せ続けました。それまでの信仰活動で培った「どんな時でも仏さまに護(まも)られている」という確信と、相手の幸せを願う「祈り」の実践によって元気や勇気を取り戻し、苦難から立ち上がってこられたのです。その経験があるからこそ、今、苦しいことがあっても、その中に光を見いだして、菩薩行に励まれています。同じ信仰者として、その姿に教えられています。
どの人も、亡き人との絆を大切にされています。例えば赴任した翌年に実施した本部参拝でのことです。司会原稿に「七回忌を迎える」との文言があるのを目にし、壮年部長さん(当時)に「法要の式典ではないので、『震災から6年目を迎える』という表現にしたらどうでしょうか」と提案しました。すると、普段は穏やかな壮年部長さんが、「この一文には、亡くなった方々と大聖堂に参拝し、これからも共に歩んで行くという思いが込められています。私たちにとって大きな意味があるんです」と話されました。私は、皆さんの思いの深さを知り、その心を大事にして、お一人お一人と縁を結ばせて頂こうと誓いました。
教会では、道場での読経供養や家庭での朝夕のご供養の時に、震災犠牲者のお戒名を毎日読み上げています。毎月11日には支部ごとに被災地で慰霊供養を行っています。雨の日も風の日も、寒い日も暑い日も、どんな条件であっても一心に慰霊の誠を捧げさせて頂く――ここにも、亡き人との絆を大切にする祈りの深さが現れています。
震災からまもなく10年を迎えますが、ほとんどの方が「あっという間だった」と言われます。今日まで、一日一日を一所懸命に生きてこられたからに違いありません。
先日、商売をされている会員さんから、こんな話を伺いました。震災から3年目までは、買い物に来ても暗い表情で一言も発しなかった常連客が、5年目ぐらいで少し話をするようになり、最近やっと笑顔を見せるようになったそうです。震災で家族を失った悲しみは、決して消えることはありません。10年という歳月は、心を前に向けるために必要な時間だったのです。地域には、そういう方がたくさんおられることをしっかり受けとめていかなければならないと思っています。
会長先生は『年頭法話』で、震災から10年を迎えることに触れられ、改めて人材育成の大切さを示されました。サンガの誰もが、大変な状況の中を懸命に生き抜いてきたからこそ、一人ひとりと慈悲の心で触れ合えると確信しています。教会では苦を抱えた方に寄り添い、心を通わせて善き縁になることを続けていきます。そして、サンガの温かい触れ合いや「まず人さま」の精神が佼成会内だけにとどまることなく、地域社会に広がっていくよう、みんなで菩薩行に励んでいきます。