「人類の友愛」に応答する法華経(バチカン記者室から)

2001年に発生した米国同時多発テロ後の世界で盛んに論議された「文明の衝突論」。世界の宗教界は、キリスト教文明とイスラーム文明の間にある衝突を主張してテロを正当化するイスラーム過激派組織との闘いを「諸宗教対話」によって克服してきた。

だが、世界を分断するイデオロギーを掲げる過激派のテロ攻撃は、その後も断続的に発生している。さらには、「自国至上主義」(キリスト教極右派勢力が中核)を標榜(ひょうぼう)して「多国間主義」を否定するポピュリズムが台頭し、イスラームとの対決姿勢を明確にしていった。

変転する世界情勢の中で、ローマ教皇フランシスコとイスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」(エジプト・カイロ)のアハメド・タイエブ総長は18年2月、アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで「人類の友愛に関する文書」に署名した。同文書からインスピレーションを得た教皇は今年10月3日、『すべての兄弟たち 友愛と社会的友情に関して』と題した新回勅を公布した。両文書は、現代の潮流を生み出しつつあり、世界宗教史においても大きな意味を持つといわれている。どちらも、「アブラハムの信仰」と呼ばれるユダヤ教、キリスト教、イスラームに共通する唯一の神によって創造された宇宙と人類は、「一家族」というビジョンに立脚している。

しかし、両文書は、中東で生まれた三大宗教のみに通ずるものなのだろうか。それとも、「万教同根」「異体同心」というビジョンをも共有する確信となり得るものなのか。

バチカン諸宗教対話評議会議長のミゲル・アンヘル・アユソ・ギクソット枢機卿は、教皇が全ての人に共通する「天来の尊厳性」の意味合いについて注意を促していると言う。「豊かな霊的遺産と数千年にわたって蓄積されてきた叡智(えいち)を備えた他宗教の伝統、それと信徒たちを中心に、(友愛に関する)“同盟者や友人”を喜んで探す」との考えだと話す。なぜなら、「現代世界は、神の忘却や神の名の乱用によって特徴付けられているが、その中にあって諸宗教の信徒たちは、平和、正義、人間の尊厳性、環境保全の促進に向けた連帯を実現していくように誘われている」からだと語る。

ヨルダンのエル・ハッサン・ビン・タラール王子(王室諸宗教研究所所長)は、「私たち全ての人間が同等の尊厳性を持ってこの地上に生まれ、平和と調和のうちに生きていきたいという願望を持っていることは、預言者ムハンマドの言行録(ハディース)の中に多く記録されている」と述べ、教皇の新回勅にコメントを寄せている。