バチカンから見た世界(82) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

対立と分断が広がる世界に示す「人類の友愛」(1)

本稿をつづっていた7月15日、立正佼成会は、文化間、宗教間の対話に取り組む「アブドッラー国王宗教・文化間対話のための国際センター」(KAICIID)を支持する声明をウェブサイトで発表した。同声明文は、「本年6月以来、サウジアラビアにおける人権問題に端を発し、オーストリア国内でのKAICIIDの地位が不安定な状態に置かれていることを私たちは憂慮しています」と記している。

サウジアラビアが欧州の世論から批判されるのは、イスラームの中で厳格で急進的な「ワッハーブ派」の影響と、それによる人権問題が大きいとされるが、それだけではなく、国際社会においてサウジアラビア政府の執るさまざまな政策が疑問視されているからだ。中でも、「イラン核合意」からの離脱を一方的に表明し、イランとの軍事対立をも辞さない米国のトランプ政権の中東における主要パートナーであることが一つ。さらに、イエメンではイスラーム・シーア派のフーシ派勢力が反政府活動を展開してきたが、背後でイランが支援しているとしてサウジアラビアが軍事介入し、甚大な人道危機を招いていることだ。

この背景には、中東地域における和平交渉の調停役を長く務めてきた米国が、サウジアラビアをパートナーとして紛争当事者の一方(イスラエルとサウジアラビア)をこれまでになく支援する、新しい中東政策を実行し始めたことがある。その対立のドクトリンは、イスラーム圏におけるスンニ派とシーア派間での対立を助長し、その緊張がイラク、シリア情勢にも及ぼうとしている。湾岸においてイラクと覇権を争うサウジアラビアは、米国や欧州各国から膨大な量の武器を購入。輸入された大量の武器が、イエメンでの軍事介入に使われていることも、欧州世論のサウジアラビア批判の原因となっているのだ。例えばイタリアでは、サウジアラビアの輸送船が購入した武器を積載するために接岸するたび、宗教者を含めた反戦を唱える諸団体が抗議するデモを行うようになった。

しかし、もう一つ見ておかなければならない重要な点は、欧州社会そのものの変化だ。米国ではメキシコとの国境に壁を建設することによって南米各国からの移民を排除し、さらに特定のイスラーム諸国からの入国者も厳しく制限しようとしたトランプ政権が成立したが、これと同時に欧州でも、「キリスト教の聖書やロザリオを選挙戦の旗印」(イタリアのポピュリスト政権の中核を成す「同盟」のサルビーニ党首)として掲げ、イスラーム教徒の移民のみならず、イスラームそのものを排斥しようと動くポピュリスト勢力が台頭してきた。欧米のポピュリスト勢力に共通するイデオロギーは、自国と白人の至上主義、反イスラームに見られる敵対の論理だけでなく、極右のキリスト教原理主義を選挙基盤としているところにある。