「公共の場で宗教シンボルを禁止すべきか」など海外の宗教ニュース (海外通信・バチカン支局)
公共の場で宗教シンボルを禁止すべきか 欧米での論争
オーストリアの議会で5月15日、小学校で「頭部を覆う、イデオロギーや宗教の影響を受けた服装を禁じる」とする法案が可決された。同国では、「反移民」「反イスラーム」を公約に掲げて一昨年の国民議会(下院)総選挙で勝利した、中道右派の国民党と極右の自由党が連立を組み、政権を担当している。
連立政権を構成する両党の代表者は、この法律が女性のイスラーム教徒がかぶるベールを対象にしていると指摘。その上で、「イスラームに対する政治的な警告」であると同時に、「女性の屈従からの解放」が目的であると説明した。一方、「シーク教徒のターバンやユダヤ教徒がかぶるキッパに対しては適用されない」とのことだ。
こうした中、クルツ首相は18日、自らが率いる国民党が自由党との連立を解消し、できるだけ早期に総選挙を実施するとの意向を表明した。自由党党首のシュトラッヘ副首相の不正疑惑が発覚したことによる。欧州議会選挙を1週間後に控えての内閣解散となり、自由党は欧州で台頭しつつある極右勢力の中心の一つであるだけに、連携する他国の極右勢力にとっては痛手となりそうだ。今回の欧州議会選の最大の焦点が、反移民、反イスラームをあおる極右勢力がどこまで、あるいは欧州レベルでの政権を担当するまで勢力を伸ばすか否かにあり、この点でオーストリアの状況が注視されている。
一方、カナダのケベック州議会では、学校の教員、公務員、判事、警官といった公的機関の職員に対して、「公務遂行中に十字架、ベール、キッパといった宗教シンボルを身に着けることを禁じる法案」が提出されている。これに対し、諸宗教の指導者たちが「信教の自由を制限するもの」として反対している。この州議会が検討している法案は、「政教分離、政治の宗教に対する中立性、あらゆる市民の平等性、良心と宗教の自由」という、4本の柱に支えられているが、カナダのイスラーム評議会は、「ケベックのムスリム(イスラーム教徒)と他の少数派宗教の信徒たちを“二等市民”として扱う差別法案」であるとし、「事前に州政府側から何の協議提案もなかった」と批判している。同州のカトリック司教会議も、「宗教に対する州の中立性が、霊的、宗教的確信を表現して生きるという個人や共同体の基本的権利を制限するものであってはならない」と懸念を表している。
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