バチカンから見た世界(79) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)
人類の友愛を説く教皇 ブルガリア、北マケドニア訪問
ローマ教皇フランシスコは5月5日から7日まで、ブルガリアと北マケドニアを訪問した。両国では、国民の大半は正教会を信仰し、他のキリスト教諸教会は、イスラームに次ぐ3番目の少数派で、総人口の1%にも満たない。
ブルガリアの首都ソフィアに到着した教皇は、大統領、政府関係者、市民団体代表者、各国大使に向けてスピーチを行った。この中で、同国を「さまざまな文化と文明の出会いの場」「東欧と南欧間の橋、近東に向けて開かれた門」と呼び、カトリック教会以外のキリスト教共同体やユダヤ教共同体のメンバー、イスラームの信徒たちに「心からのあいさつ」を送りながら、こうした諸宗教者のグループは、「それぞれの宗教の教えが平和という価値に、しっかりと根を張り、相互理解、人類の友愛、一致共存といった価値を促進していくように誘(いざな)うとの、強き確信を表明している」と述べた。
このスピーチは、今年2月に教皇とイスラーム・スンニ派最高権威機関「アズハル」のアハメド・タイエブ総長がアラブ首長国連邦(UAE)のアブダビで署名した、「人類の友愛に関する文書」を引用したものだった。それぞれの宗教が調和と協調を促進させる時、「あらゆる手段を使って宗教を操作して道具化しようとする者たちに打ち勝つことができる」との考えを示した。
また、教皇は「ここ数十年間に200万人を超える(ブルガリア)国民が職を求めて国外へ流出した」と語り、「未来に対する信頼が低下したため、出生率が減少して村落や都市の過疎化が進んだ」と指摘した。一方、「戦争、紛争、あるいは悲惨な生活状況から逃れようとする難民が、あなたたちの国に流入し、あらゆる手段を使って欧州大陸の富める地域へと向かう」現象にも言及し、こうした移民に対しては、「あなたたちの門戸を叩(たた)く人々に目、心、手を閉ざさないようにと進言することを、お許しください」と嘆願した。バルカン半島の国々や、かつての東欧諸国が、シリアやイラクからギリシャ、トルコを経由(バルカンルート)して欧州大陸の北部へと向かう難民の国内への流入を阻止するために、こぞって鉄条網や壁を建設していることに対する教皇の非難だった。
教皇を出迎えた同国のルメン・ラデフ大統領は、「私たちの劇的な歴史は、戦争と苦難に満ちているが、私たちは、人間主義(ヒューマニズム)と、さまざまな宗教、民族、国民の間における寛容が勝利する時にのみ、平和が継続されることを知っている。ブルガリア社会は、異なる人種への嫌悪、差別を許さない」とスピーチ。「今日の欧州には、外国人への憎悪や異なる人種への嫌悪の風潮が回帰してきた」と警告することも忘れなかったが、「“壁”を構築することは易しいが、“橋”を建設することは難しい」と語った。