乳幼児期の子どもの発達 「子どもの権利条約」の視点から 大谷美紀子弁護士
「子どもの権利条約」は現在、196の国と地域が批准する、最も多くの締約国を有する国連の人権条約です。この中で、子どもとは、「18歳未満の全ての者」と定められています。未熟な存在である子どもを保護する義務を大人に課するだけでなく、子ども自身が“権利の主体”という考え方が、条約の大きな柱となっています。
さらに、「子どもの権利条約」には四つの重要な原則が定められています。一つは「生命の権利」。子どもが発達・成長し、能力を開花させる権利です。次が「差別されない権利」。生まれた国や民族、親の状態、障害の有無といった違いに関係なく、保障されることを指します。三つ目は「子どもの最善の利益の原則」と呼ばれ、国が子どもに関する決定をする際、子どもにとって何が最重要かを考慮しなければならないとしています。
そして最後が、「子どもの意見を聞かれる権利」です。日本ではときどき「意見表明権」と訳されていますが、ニュアンスが少し違います。どちらかと言うと、法律や規則を決めるときに子どもの考えを聞き、その意見をくみ取って反映しなければならないというものです。しかし、子どもの意見を聞いて作られた規則や法律は私の知る限りありません。聞き方や進め方は非常に難しいですが、今後取り組んでいかなければならない課題と受けとめています。
私は3月から「子どもの権利委員会」の委員を務めます。年に3回ジュネーブに集まり、批准国がどのように条約を実行しているかを各国政府に聞いて意見を交換する役割と、子どもの権利保障についてテーマを決めて話し合い、見解をまとめる役割があります。
乳幼児期はとても重要で、その後の成長や発達の基礎となり、一生の土台作りとなる時期です。この時期の子どもの発達にとって、母親をはじめ、一番身近な人の存在は重要で、世話をする彼らを「プライマリーケアラー」と呼びます。
裏を返すと、家庭での暴力は大きな問題です。最も愛着を抱く親などから虐待を受けることのネガティブな影響は計り知れず、虐待によって脳が損傷を受けるという科学的なデータもあります。脳の損傷は早い時期にケアすると回復できるのですが、ある一定の年齢を超えると、影響は生涯続くそうです。
日本では、年間50人弱の子どもが虐待死しています。暴力は犯罪であるにもかかわらず、いまだに家庭の問題と捉える傾向が根強く、児童相談所や警察の介入が緩いのが現状です。まずは暴力が子どもに与える影響の深刻さを一人ひとりが理解していかなければなりません。その意味では、プライマリーケアラーへの支援のあり方についても考えていきたいと思っています。
(1月18日に東京都港区のユニセフハウスで行われた映画『命の始まり』東京上映会でのトークショーと取材から)
プロフィル
おおたに・みきこ 弁護士。大阪府出身。日本人で初めて国連「子どもの権利委員会」委員に選出され、今年3月から4年の任期を務める。共著に、『国際人権法実践ハンドブック』(現代人文社)。