TKWO――音楽とともにある人生♪ ユーフォニアム・岩黒綾乃さん Vol.3
高校の吹奏楽部員だった頃に東京佼成ウインドオーケストラ(TKWO)の演奏を聴き、衝撃を受けたというユーフォニアム奏者の岩黒綾乃さん。最終回では、楽器の魅力、演奏する際に心がけていること、そして、吹奏楽に取り組む中高生に向けたメッセージを聞いた。
演奏で自分の力を出し切るために
――ユーフォニアムという楽器の魅力は?
演奏家は、自分の楽器の音が好きですから、誰もが音色に惚(ほ)れたと答えるのではないでしょうか。私も同じです。
その中で、一番にお伝えしたいのは、柔らかくて温かみのあるユーフォニアム特有の音色ですね。ぜひ、演奏会で、CDなどとは違う“生の音色”を味わってもらえればと思います。
加えて、さまざまな役割をこなせる点もユーフォニアムの大好きなところです。例えば、メロディー(主旋律)、それを陰で支える裏メロ(副旋律や対旋律)、低音域やリズムを際立たせるためのベースライン、花形であるソロ演奏と、挙げれば切りがありません。ここで注目して頂きたいのは、ソロ演奏以外は、特定の楽器の旋律に合わせて演奏を支える役割であることです。ユーフォニアムは、他の楽器との絡みが多い楽器で、私は一つの音楽を他の楽器と協力してつくり上げていくことに喜びを感じています。これは、ユーフォニアムの大きな魅力で、大いに誇れる部分です。
――ユーフォニアムは、主役もできる名バイプレーヤーですね
そうですね。演奏を支えるために欠かせない存在だと思っています。ちょうど、私自身の性格は、「われ先に!」というタイプではなく、周囲の動きを観察するような慎重派なので、演奏の中では裏メロを吹くのが結構好きなんです。もちろん、ソロを任された時は、堂々と華やかに振る舞いますよ。でも、どちらかと言えば、スポットライトの当たる美しい主旋律を、黒子のようにしっかり支える――組織で例えるなら、リーダーとして先頭に立ち、全体を引っ張るよりも、その頑張るリーダーを後方から援護し、しっかり助けるといった役割と言うのでしょうか。そこにやりがいを感じています。
――ユーフォニアムを演奏する上で、何を意識していますか?
アンサンブル(合奏)は、他の楽器に合わせるものなので、合わせる相手の音をしっかり聴く。これを一番に意識しています。
相手の音を聴き、タイミング良く吹く。演奏中はこの連続です。的確に聴かなければ、相手の演奏に音を合わせることができません。合わせる相手の楽器の座席が離れている場合には、普段より集中し、“耳”を凝らします。
――そのために、どのような工夫を?
準備を怠らないことですね。本番で、自分の演奏に気を取られてしまうと、合わせる相手の音を聴く意識がどうしても散漫になります。そうなると、相手の音を聴き逃してしまう場合もあり、さらに焦りが生まれて、演奏で自分の力を出し切ることができなくなってしまいます。
ですから、本番に至るまでの準備が大切になります。まずは楽団のリハーサルまでに自分の演奏を仕上げ、自分が合わせる音を意識できる気持ちの余裕をつくります。その上でリハーサルに臨むと、全体の演奏の中で、私が特に耳を凝らさなければならない場面を確認できますし、会場によって聞こえ方が変わるかもしれないと想定される場合も、「注意しよう」と意識することができます。こうして心配事を一つずつ解消していくことで、気持ちの余裕を持って本番を迎えることができるのです。
よく、観客の方や音楽を学んでいる若い人たちから、さまざまな場面で、「緊張せずに演奏する秘訣(ひけつ)はありますか?」と聞かれることがあります。私は答えに困ってしまい、〈そんな方法があるなら、私の方が教えてもらいたい〉と思ってしまいます。というのも、私は何事に対しても、すぐに緊張するタイプで、何を隠そう、今、こうしてインタビューを受けている最中も……(笑)。ですから、緊張せずにステージに立ったことなどありません。だからこそ、緊張しない方法を考えるのでなく、「必ず緊張するもの」と割り切り、それでもしっかり演奏できるよう準備を怠らないことにしています。
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