【Japan Hair Donation & Charity 代表理事・渡辺貴一さん】髪が人をつなぐ 広がれ善意の束
先天性の病気や、治療の副作用で髪の毛を失った子供たちに、医療用ウィッグを無償提供する「ヘアドネーション」。毛髪は、活動に賛同する市民から寄せられたものだ。このために髪を伸ばす人や、活動を知って大切に伸ばしてきた髪を提供する人も多い。ヘアドネーションが日本に広がるきっかけをつくった美容師の渡辺貴一さん。NPO法人「Japan Hair Donation & Charity (ジャーダック)」代表理事を務め、髪の毛を通して、ドナーとレシピエント(提供される人)のハートをつなぐ。活動の歩みと、一つ一つのウィッグに込められた思いを聞いた。
髪への恩返し 美容師だからできること
――ヘアドネーションの活動を始めるきっかけは?
長く伸ばした髪をばっさり切る――この時、「これ、もったいないですね」といった会話は、日本中の美容院でされてきたと思うんです。僕らも同じで、「髪の毛が無駄にならない方法って何だろう」という発想から、海外のウィッグ会社などが慈善事業として取り組んでいた「ヘアドネーション」の活動を国内でスタートさせました。ちょうど美容院を開業した2008年のことです。美容院として社会貢献をしたいというのが同僚との一致した考えでしたし、個人としてもそれまでの20年間、美容師を生業(なりわい)としてきましたので、“髪の毛に対する恩返しがしたい”という思いでした。
僕たちが手掛けるのは、医療用ウィッグで、素材となる毛髪を活動の賛同者であるドナーから提供してもらい、それを海外の工場へ送って加工し、髪の色や長さを整えた上で専門企業に製作を依頼してます。一つ作るのに20~30人の方から提供される毛髪が必要で、全ての工程が職人の手作業です。
「パーマ屋のオヤジ」がゼロから始めた取り組みですので、当初は髪を扱う工場や企業、ウィッグを必要とするレシピエントを見つけるのに、とても苦労しました。ヘアドネーションは日本では全く知られていませんでしたから、髪の提供者も月に1人ほど。最初のウィッグが完成するまでに、4年の歳月を要しました。