バチカンから見た世界(42) 文・宮平宏(本紙バチカン支局長)

仏教徒とキリスト教徒の対話の行方
バチカン諸宗教対話評議会主催、中国地域司教協議会、霊鷲山僧院(台湾)共催による「第6回仏教徒・キリスト教徒会議」が11月13日から16日まで、霊鷲山無生道場で開かれた。今回は『仏教徒とキリスト教徒が共に歩む非暴力への道』が総合テーマに掲げられた。

会議には、霊鷲山僧院や現地の司教会議のほか、アジア司教協議会連盟(FABC)、世界教会協議会(WCC)、東西霊性交流(禅僧とキリスト教修道士の相互訪問交流活動)などから代表者が参加。立正佼成会からは庭野光祥次代会長が出席し、基調発題を行った。

同会議は、両宗教間の友愛と相互理解の促進、世界の諸問題に対する解決策を探る目的で、1995年から開催されている。台湾で行われた今回の会議では、両宗教の共通する霊性や伝統が示され、それを原動力に宗教協力を進め、世界の歪(ひず)みや悪を是正していくこと――とりわけ、社会的に、構造的に恵まれない状況に置かれた人々の苦を軽減して、人々に救済の道を提示するために協調していくとの主張が多く聞かれた。これは、行動の指針を示すものであり、両宗教間の対話が、新たな局面に差し掛かったと言えるのではないだろうか。

カトリック教会は、バチカン諸宗教対話評議会議長のジャン・ルイ・トーラン枢機卿が会議最終日に行った「総括スピーチ」を通して、その意向を表明した。

バチカン日刊紙「オッセルバトーレ・ロマーノ」は同17日、『暴力の解毒剤は対話にある』と題し、そのスピーチを報道。これによると、同枢機卿は「暴力は人間の生命を破壊するものであり、そうである以上、われわれの共通の任務は、分裂した世界を癒やすことにある」と仏教徒に呼び掛け、「諸宗教対話が暴力の解毒剤」であると強調した。また、家庭や市民生活をはじめ政治の場や宗教制度において、「共に非暴力の道を歩もう」と主張。そのためには、真理の言葉を口にし、真理を愛徳をもって発することが必要だと訴えた。

バチカン諸宗教対話評議会は、釈尊の降誕を祝うベサク祭に合わせて世界の仏教徒にメッセージを発しているが、今年のメッセージには「権力(政権)に対して『真理を言う』こととは、正義を求め、不正義が常態化する現状を告発し、無防備な人々を擁護するために、公に発言する」との言葉がある。この意図を、スピーチの中で同枢機卿は「われわれの告白する宗教的真理が、権力者が権力を乱用することで犠牲を強いられている人々の声を代弁するものであるからだ」と説明。その上で、「ブッダが権力者に対して真理を説いた時、彼は生命の危険にさらされた」「権力者に対して真理を説いたことによって、イエス・キリストは自身の生命という代価を払った」とし、その伝統から仏教徒とキリスト教徒は「眼前にある悪を糾弾していく勇気を持たなければならない」と述べた。

さらに、同枢機卿は、ベトナム人の僧侶で、平和・人権活動家、エンゲージド・ブッディズム(社会参加仏教)の提唱者として知られるティク・ナット・ハン師がベトナム戦争のさなか、戦闘の停止を訴えたために「反逆者」との烙印(らくいん)を押されたことを紹介。その上で、米国のカトリック教会の修道司祭(トラピスト会)で、ベトナム戦争反対を表明していた作家のトーマス・マートン師が当時、ハン師を「私の兄弟」と呼んでいたことを挙げ、二人の諸宗教間の友愛が愛と慈悲に基づく一つの声となり、宗教的確信が強められたと語った。そして、彼らの声は「声なき人々」の思いを代弁するものであり、「不正義、抑圧、排除といった状況に直面している人々を感化する連帯の模範になった」として、改めて、仏教徒とキリスト教徒が共に「愛徳によって、非暴力という真理を語る」大切さを語ったのだった。