【特別インタビュー 第34回庭野平和賞受賞者 ムニブ・A・ユナン師】 聖地エルサレムで、諸宗教対話による平和の実現に尽くす
宗教戦争を招く過激主義者の意図に乗ってはならない
ここで、私たちが考えるべき重要なことが二つあります。一つは、全ての当事者の側に「過激主義者」がいるということ。そして、いずれの過激主義者も、政治的な対立を「宗教戦争」に変質させようとしている点です。宗教戦争に勝者はありません。憎しみが生まれ、皆が敗者になります。過激主義者が喜ぶだけの宗教戦争を招いてはならないのです。
二つ目は、「行動規範を持つことが重要である」という点です。宗教は「他者を尊重する」ことを大事にし、聖地はその宗教に関わる場所ですから、暴力が発生するような雰囲気、空気感をつくってはならないと思います。
宗教戦争にさせない、他者を尊重する行動規範を持つ――これらが、私たちがCRIHLを創立した目的です。
エルサレムの南に位置するヘブロンは、ユダヤ教、キリスト教、イスラーム3宗教の聖地です。しかし、1994年、オスロ合意(イスラエルとパレスチナの和平条約)に反対のユダヤ人男性による銃乱射事件が起こり、これを機にユダヤ人とパレスチナ人の地区に分割されてしまいました。エルサレムもそうされてしまうのではないかという危機感が私たちにはありました。CRIHLの創立には、3宗教の紛争を起こしてはならないという強い思いが込められています。
庭野 エルサレムの緊迫した状況に危機感を持たれ、CRIHLを創立されたということですね。
ユナン 実はもう一つあります。エルサレムでは、平和を築いていくことに、宗教指導者が必ずしも積極的な役割を果たしてきたわけではありません。政府を支援する宗教指導者も多く見られました。
また、他宗教の指導者を批判する指導者もいます。それも真実に基づかない、間違った描写によってです。しかし、一般の人々は、その言葉に耳を傾け、信じてしまいます。加えて、この地には、イスラエル、パレスチナのそれぞれの動向をモニターする企業が双方にあり、互いの宗教指導者の発言をチェックし合っていますから、対立があおられるのです。
つまり、問題の元は、相手の真の姿に目を向けずに間違った情報を基に発言を行っている指導者にあります。宗教指導者が変わらなくてはなりません。ですから、CRIHLのもう一つの目的は、ユダヤ教、キリスト教、イスラームの宗教指導者間の信頼を醸成することであり、そのことに力を尽くしてきました。