【特別インタビュー 第42回庭野平和賞受賞団体 国際NGO「ムサーワー」アンワール理事長、ミル=ホセイニ理事】イスラームの教えや伝統を理解し知識を共有
安心して発言できる世界を
庭野 素晴らしいですね。長年の取り組みによってムスリム女性たちの意識は変わってきましたか?

ミル=ホセイニ理事
ミル=ホセイニ インドネシアでは、ムサーワーが提供した枠組みを使ってムスリム女性の学者や活動家がグループを作り、2017年には男性と一緒に大会を開いて四つのファトワー(イスラーム法学に基づいて出される見解)を発布しました。ファトワーは伝統的な男性イスラーム法学者から出されるものなので、とても驚きました。
アンワール スリランカでは、若いムスリム女性の団体がムサーワーの提供した資料を使って学びを深め、家族法の改革に向けた取り組みを展開しています。インドやモルディブでもそうです。このように、女性たちの意識を変え、団結して声を大きくしていくことが重要だと考えています。約1400年前から続く、イスラーム法に基づく父系主義、男性指導型の文化を変えていくためには、メディアや国際機関のサポートを得られるかも課題になります。厳しい挑戦ですが、イスラームは公正なのですから、どんな形でも私たちの生活に反映していかなくてはいけません。
庭野 神による「イスラームは公正」という言葉は、仏教でいう慈悲であり、キリスト教の神の愛のように感じます。宗教が持つ平等性は共通していると受けとめていますが、ムサーワーはどんな世界を目指しているのでしょうか。
アンワール 現代のムスリム女性の中には、経済的に独立し、社会でリーダーとなっている人も多くいます。こうした現実に即してイスラームの教えを解釈し、公正、平等、共感を追求して差別を廃し、女性が安心して発言できる世界を作りたいです。
ミル=ホセイニ リソースへの平等なアクセスも重要です。家族の中で何事も男性が優先されるなど、ムスリム女性は生まれた時から何かを平等に手にする経験がありません。私が生きている間に差別的な家族法を全て改正することは難しいですが、時間や資金などを女性が自由に活用できるように活動を続けることが大事です。
庭野 最後に、本会の会員にメッセージをお願いします。
アンワール 平等、正義、非暴力の世界を実現するという点で、私たちは共通の目的を持っています。受け身にならず、自らを変革し、正義、平等、思いやりのために発言していきましょう。
ミル=ホセイニ 私たちは平等な存在としてこの地球に生まれてきたのですから、自らの中にある公正の声に耳を傾けてほしいと思います。そして、家庭でも社会でも、不正義や不公正に対して立ち上がり、抗議をしてほしいです。こうした努力を続けることで、少しずつ世界は変化していくと信じています。
団体紹介
ムサーワー 2009年、ザイナ・アンワール理事長やジーバ・ミル=ホセイニ理事らによってマレーシアで国際的なネットワークを持った運動体として創立された。ムサーワーはアラビア語で「平等」を意味し、イスラーム社会の中で男女平等や女性の人権擁護を促進するため、提言活動や教育の提供を国際的に展開している。