【特別インタビュー 第42回庭野平和賞受賞団体 国際NGO「ムサーワー」アンワール理事長、ミル=ホセイニ理事】イスラームの教えや伝統を理解し知識を共有

インタビューは、普門メディアセンターで行われた

「第42回庭野平和賞」を受賞した世界的な運動体「ムサーワー」は、「イスラームは公正であり、神は公正である」という信仰信条を持つ。イスラームの教えを基に男女平等や公正な社会の実現を目指して、イスラームに関する知識の構築と共有、メンバーの能力開発などに取り組んでいる。贈呈式のために来日したムサーワーの共同創立者であるザイナ・アンワール理事長、ジーバ・ミル=ホセイニ理事に式の翌日、庭野平和財団の庭野浩士理事長(選名・統弘)がインタビューした。その内容を紹介する。(文中敬称略)

等しく人権が守られてこそ

庭野 ムサーワーは16年にわたり、イスラーム社会の中で男女平等を実現する活動を続けています。団体の発足当時、イスラーム世界でムスリム(イスラーム教徒)女性はどんな状況に置かれていたのですか。

アンワール理事長

アンワール 女性たちは差別に苦しんでいました。一夫多妻、子どもの親権を持てない、男性への服従を強制されるといったものです。これらを男性が主張する背景にあるのが、イスラームの「家族法」です。聖典「クルアーン」や預言者ムハンマドの言行録「ハディース」に基づき、婚姻や親子関係など家族生活に関する規範を定めたもので、長年にわたり家父長制や男性主義を大切にしてきた伝統的なイスラーム国家の家族法には女性差別的な内容が含まれており、男性はイスラームの名のもとに差別を正当化しています。

しかし、私たちが学んできたイスラームは公正であり、神は公正です。この概念は、聖典「クルアーン」の中心的な価値観であり、イスラーム法「シャリーア」の中でも重要視されています。ならば、女性にも等しく尊厳があり、人権が守られなければいけません。それに、家族の中に公正がなければ、社会も不公正になっていきます。こうした視点から、ムサーワーは、法学者ではないムスリムがイスラームの教えや伝統を正しく理解できるように知識を提供しています。庭野日敬開祖も、多くの人が法華経を理解できるように著書を出すなどしたと聞きました。ムサーワーの取り組みも同じだと感じています。

ミル=ホセイニ 1979年、国連で女性差別撤廃条約が採択されました。しかし、イスラーム諸国は条項の一部、特に家族についての項目を留保しています。これは、家父長制や男性主義を大切にするイスラームの伝統的な家族法との齟齬(そご)による衝突が起きたからです。賛同できない要因の一つに、私は社会で権威を持つ男性宗教指導者の“恐れ”があると思います。当時は、自由や権利を尊重する近代的な価値観が広まり始め、イスラーム社会でも女性が教育を受けて発言するようになっていました。しかし、そこに政治的なイスラームが現れ、宗教を利用して女性の権利を奪ったのです。私の故国であるイランでの革命もそういえるでしょう。

こうした状況を改善するため、私たちはイスラームの教えと人権、フェミニズムを組み合わせて知識を構築し、新しいイスラーム法の解釈を作り出そうと考えました。私たちのアプローチは包摂的です。対話を大事にし、イスラームの伝統、フェミニズムの歴史、世俗的な価値観、他宗教をも受け入れて取り組んでいます。

庭野 教義解釈の再構築を拒む理由にある男性宗教指導者の‟恐れ”は、リーダーになると持ちがちかもしれませんね。

ムサーワーは、女性の権利回復に向けてどんな活動をしているのですか。

アンワール 事務局をマレーシアに置き、アジア、中東、アフリカなど30カ国以上のムスリム団体とパートナーシップを結んでいます。主な支援の一つはアドボカシーです。女性差別の撤廃を訴える提言書の作成をサポートします。一夫多妻制を禁止したチュニジアのように、イスラーム諸国の中でも女性の地位向上を目的に法解釈の改正を進める国はあります。

あくまで、イスラーム法に沿って差別を廃絶することを目指しています。

また、メンバーの能力開発も重要です。女性の権利を訴えたら、保守的な宗教指導者に「イスラームの教えに反している」と必ず批判されます。公共の場で勇気を持って反論するには、イスラーム法などに関する知識を備えて解釈の根拠を示す必要があります。ムサーワーは「イスラームと男女平等・正義」と題する講座の展開、冊子や映像の配信などを通し、イスラームの伝統の中で生まれた家族法を改革可能にする方法を伝えています。

ミル=ホセイニ 一方で、ムサーワーは特定の国、政治と関わりを持ちません。各国の問題に対して発言するのは、自国の人々がするべきです。私たちは知識や戦略を提供してサポートしますが、決して考えを押し付けません。全ての文化を尊重しているからです。

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