【特別インタビュー 第37回庭野平和賞受賞者 法輪師】 仏教への目覚め、真の平和を実現するために
過去に執着せず、未来を見据え、より良い生き方を
庭野 修行がなされる場が寺であると伺い、今年、庭野平和財団の名誉会長である立正佼成会の庭野会長が『年頭法話』で示した「即是道場(そくぜどうじょう)」の精神と相通じるものがあると感じました。教えの実践について、浄土会とは非常に共通点が多いようです。
ところで近年は世界各地で大規模な自然災害が起こり、今年は新型コロナウイルスが発生しました。さらに社会格差も広がっています。深刻な問題の要因は何だとお考えですか。
法輪 人間が正しくない価値観に則(のっと)って生きているからではないでしょうか。例えば多くを生産し、消費することが豊かである、幸せであるという価値観です。こうした中で過剰に資源が使われ、大量のごみが出ています。消費主義はエネルギー問題やごみ問題、気候変動、貧富の格差とつながっているのです。
釈尊は、一国の王子だったにもかかわらず、富を捨てて出家されました。潤沢な財産や地位、名誉は人間を本当の幸せには導かない、それを超えたところに本当の幸せがあると体現されたのです。欲望を満たす消費主義を克服したとも言え、そこに人類の希望を感じます。仏さまの道は、「未来に向かうために必要な『昔の道』」なのです。
庭野 名言ですね。仏教徒として、そのような生き方がしたいと改めて思います。ウィズコロナ時代をどう生きていけばよいでしょうか。
法輪 それぞれに、これまでに営んできた生活習慣がありますから、コロナ禍では不便を感じることが多いでしょう。しかし、何もできない状況に置かれたわけではありません。コロナ以前を基準にすると大変に感じますが、過去に執着せず、変化を恐れずに未来を見据え、より良い生き方を探せばよいのです。その心持ちが重要です。
オンラインでつながることも、新たな試みの一つです。人々はこの変化に徐々に慣れていくでしょう。
非対面社会の拡大は、実は人類が初めて遭遇したものではありません。最初の遭遇は、文字の発明です。文字文化の発達により、インドで興った仏教が中国、韓国、日本へと伝わりました。コミュニケーションとしては対面に劣るにせよ、非対面は「拡散」という面から見ると大きな役割を果たします。現在の状況を、新しい生き方を模索するチャンスと捉え、行動することが大切だと思います。
プロフィル
ポンニュン 1953年、韓国・蔚山(ウルサン)広域市生まれ。16歳で得度した。88年に在家仏教教団「浄土会」を創立。人々に仏教を伝えるとともに、国内外で人道支援や福祉、環境保護の活動に取り組む。2002年、アジアのノーベル賞と称される「ラモン・マグサイサイ賞」を受賞。