オンラインシンポジウム「現代世界における和解の諸問題~平和で包摂的なグローバル社会に向けて~」

基調発題で教皇の「核兵器についてのメッセージ」を紹介した髙見師

世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)日本委員会共催のシンポジウム「現代世界における和解の諸問題~平和で包摂的なグローバル社会に向けて~」が9月27日、オンラインで開催された(ニュース既報)。当日は、カトリック長崎大司教区の髙見三明大司教、中国・復旦大学の葛兆光特別招聘(しょうへい)教授が基調発題を行った。さらに、「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)の川崎哲国際運営委員(ピースボート共同代表)、上智大学総合グローバル学部の稲葉奈々子教授、フォトジャーナリストの安田菜津紀氏がパネルトークで意見を述べた。それぞれの発言要旨を紹介する。(文責在記者)

基調発題

カトリック長崎大司教区大司教・髙見三明師

武力紛争、難民保護、気候変動など世界はさまざまな問題を抱えています。平和への提言と、確実な実行が求められています。そうした意味で、昨年11月に訪日したローマ教皇フランシスコが被爆地の長崎市と広島市で語ったメッセージは、今の私たちが行動するために必要なものだと受けとめています。

教皇が配布したカード。原爆投下後の長崎で撮影された「焼き場に立つ少年」の写真が印刷されている(©バチカン日刊紙「オッセルバトーレ・ロマーノ」)

教皇は、長崎で発した「核兵器についてのメッセージ」の冒頭で、「人の心にあるもっとも深い望みの一つは、平和と安定への望みです。核兵器や大量破壊兵器の保有は、この望みに対する最良のこたえではありません。(中略)国際的な平和と安定は、相互破壊への不安や壊滅の脅威を土台とした、どんな企てとも相いれないものです」と述べました。「核兵器による抑止力で作られた平和」は偽りで、本物の平和ではないことを示したのです。

さらに教皇は、軍備拡張競争は、自然環境の保全に活用すべき貴重な資源の無駄遣いであり、破壊力を高めている武器の製造、保有、売買は、「神に歯向かうテロ行為」と強調しました。誰も戦争を望んでおらず、人々が熱望するのは、核兵器を含むあらゆる武器から解放された平和な世界です。この理想を実現するため、教皇は、一部の平和主義者だけでなく、宗教団体や市民社会、核兵器保有国と非保有国、軍隊、国際機関などが一致団結する重要性を訴えています。核なき世界の実現は可能であるという確信を持ち、不信を打ち砕いて、相互信頼を築いていかなければなりません。

広島の平和記念公園で行われた「平和のための集い」で教皇は、倫理に反する原子力の戦争利用を廃し、私たちの“共通の家”である地球を世話し、未来を守る大切さを説きました。人類にとっての共通善を促進し、その結果として生まれるもの、これこそが真の平和です。

復旦大学特別招聘教授・葛兆光氏

米国のある国際政治学者は著書の中で、「将来、衝突を引き起こすのは異なる文明であり、文明の核心は宗教、信仰だ」と指摘しました。では現代の世界で、宗教はどのように「和解」を構築し、他宗教の価値を「包摂」して、人類の共通認識を形成するのでしょうか。

それを考える上で興味深い事例があります。諸宗教の相互理解を深めるため1893年に米国のシカゴで、「シカゴ万国宗教会議」が開催されました。世界各地から宗教者が集まり、日本からは釈宗演師などの高僧が仏教の代表として参加し交流を深めました。

当時、日本の仏教はキリスト教の布教の方法を取り入れ、僧侶を積極的に海外に派遣しました。新たな文化と触れ合うことで自らを省み、理解していったのです。

一方、中国からは米国駐在の官僚の一人しか出席しませんでした。当時、中国では宗教全般に「天朝」意識があり、西洋文化を拒絶していたのです。日中両国の対照的な姿勢は、宗教が新たな世界や文化に出合った時、融合か、拒絶かという岐路に立つことを象徴しています。

世界の諸宗教が「和解」と「包容」を実現するにはどうすればいいでしょうか。それには、真に平等的な態度と多元的な意識を持つ必要があります。対話の場で特定の宗教に偏った意見を出せば、他宗教からも自らの教義に沿った主張がなされ、不協和をもたらすでしょう。

また、それぞれの宗教の国家における立場を軽視するのも難しいものがあります。明治時代、日本の仏教が海外に布教し、各地で新たな文化との融合を目指す一方、国内では弾圧を逃れるために政府と協力する、「護教愛国」の方針を提唱していました。こうした状況は現代にもあります。

多様性の中に平等を見いだす視点として、シカゴ万国宗教会議の宣言文では、「自らが受けたくないことは、他者にもしない」という考え方を、全ての宗教が受容できる共通理念としたのです。

これを基とし、諸宗教が真の和解と包容を実現できるか、私たちはしっかりと考える必要があります。

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