庭野平和財団「第2回現代社会の問題を考えるセミナー」 日韓の歴史から現状踏まえ、関係構築にさらなる対話を
戦時中の元徴用工をめぐる問題をきっかけに悪化した日韓関係の現状とその原因を学ぶ「第2回現代社会の問題を考えるセミナー」(庭野平和財団主催)が昨年12月7日、佼成図書館視聴覚ホールで開催された。
早稲田大学大学院アジア太平洋研究科の李鍾元(リー・ジョンウォン)教授、一橋大学大学院法学研究科の権容奭(クォン・ヨンソク)准教授、雑誌「世界」の元編集長である岩波書店の岡本厚代表取締役社長による講演と鼎談(ていだん)が行われ、両国の関係改善の糸口が模索された。
韓国の元徴用工が日本企業に損害賠償を求めた裁判で一昨年10月、韓国の大法院(最高裁判所)が日本企業に賠償の支払いを命じ、文在寅(ムン・ジェイン)大統領は判決を容認する考えを示した。これに対し日本政府は、戦後の補償問題は日韓請求権協定で解決済みとして撤回を求め、その後に韓国への輸出管理強化に踏み切った。韓国は対抗措置として昨年8月に日本との軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を発表。同協定は破棄寸前までいき、両国の関係悪化が改めて浮き彫りとなった。
こうした状況を踏まえ、岡本氏は冒頭、悪化の原因は歴史問題にあり、現状に至った背景に、北朝鮮との和解を重視する文政権への日本側のけん制があったとの見方を表明。米国とソ連による東西冷戦構造はアジアにも影響し、日本は戦後長く、この構造を前提に安全保障や経済のあり方を考えてきたが、その前提が大きく変わろうとしている今、変化に対する警戒心と反動が生じていると話した。
また、李氏は、1965年の日韓国交正常化以来、両国は政治の面では時に軋轢(あつれき)を生じさせてきた一方、経済と安全保障に関しては連携してきたと説明。政治は距離を置き、経済は深く交流するという“経済政治分離”によって相互に成長を果たしてきたが、日本が今年、外交上初めて輸出規制という経済カードを切ったことで、経済と安全保障、歴史問題が一気に連動し、関係全体に余波が広がったと指摘した。その上で中国の存在感が増大する東アジアの現状に触れ、日本政府の対応は、中国、韓国に対する“新冷戦”の表明とも受け取れ、「(日本が)アメリカの政策にのみ軸足を置くことで、韓国との間で安全保障の共通理解にも開きが出てきた」と分析した。
権氏は、「歴史問題の棚上げに限界がきている」とし、両国がぶつかるのは必然との見方を示し、新しい関係を築く対話の重要性を詳述した。