【特別インタビュー 第36回庭野平和賞受賞者 ジョン・ポール・レデラック博士】 真の平和を目指して――紛争の見方を変える

多様な人々の叡智を結集し

庭野 博士のお言葉は、人間に絶望せず、信じているからこそ発せられるものだと感じました。

レデラック 人が生きるためには希望が必要です。キリスト教やユダヤ教でも、希望が失われたところで人は死に絶えると説かれています。もし平和構築という言葉を言い換えることができるなら、私は“希望構築”と名づけるでしょう。私たち大人が一番大切にすべきことは、子供たち、孫たちに何を残していけるかという問い掛けです。

庭野 “希望構築者”となるには何が必要でしょう?

レデラック 一つは忍耐力です。武力紛争地では、人々が傷つき、怒りに満ちた場所に入っていくわけですから、求められるのは、謙虚さ、忍耐力、そして傾聴、傾聴、さらに傾聴の姿勢です。

和解に向けた対話の場では、人々は自分が価値のある存在として認められているかどうかを意識します。心が通い合う対話を重ねて深い信頼を築き、互いに成長していけるような関係をつくっていくことが欠かせません。

さらに、私たちは現在、人類の生存に関わる危機に直面しています。国連は、今後数十年で約100万種の生物が絶滅する恐れがあると発表しました。信じがたいことです。地球規模の課題を乗り越えていくために途方もない想像力が必要です。若者を育成する側も、この認識を持つことが大事になります。

こうした危機に対し、私たち人間は共に立ち上がり、世代を超えた叡智(えいち)を結集していかなければなりません。多様な人々の協力がなければ、さまざまな試練を乗り越えていくことはできないでしょう。

まずは、一人ひとりが自身の変革を心がけ、自分をより良く変えていきながら、できるところから世界を良い方向に変えていくことです。

庭野 ありがとうございました。

(通訳・肥田良夫氏=株式会社ヒューテック)

日本滞在中、レデラック博士(左端)は青梅練成道場を訪れ、学林生と交流。自然の中で俳句を詠み、五感を鍛えるワークショップを通して心を通わせた

プロフィル

ジョン・ポール・レデラック 1955年、米・インディアナ州生まれ。ノートルダム大学名誉教授。現在は、慈善団体「ヒューマニティ・ユナイテッド」の上級研究員で、コロンビア真実和解委員会の諮問委員。メノナイトの信仰を基に40年にわたり世界の紛争地で調停や和解に尽くす。「紛争変革」の理論を提唱し、数百に及ぶ平和構築トレーニングや和解プログラムを開発。94年、イースタン・メノナイト大学に正義と平和構築センターを設立した。各地の大学での講義や著書を通して後進の育成にも努めている。著書は24点に上り、日本では『敵対から共生へ――平和づくりの実践ガイド』(ヨベル)が出版されている。

レデラック博士の提唱する「Conflict Transformation」(紛争変革)について

紛争の解決や平和の構築について研究する学術分野で「Conflict Transformation」という英語は、「紛争変容」と訳されることが多いものの、レデラック博士の著書の翻訳では「紛争変革」(水野節子、宮崎誉共訳)とされています。このほか、「紛争の転換」(ヨハン・ガルトゥング著、奥本京子訳・伊藤武彦編集)、「紛争移行」(オリバー・ラムズボサム著、宮本貴世訳)などがあり、翻訳は定まっていません。このため、本紙では、庭野平和財団の発表と博士の著書の翻訳に沿い、「紛争変革」としています。