【特別インタビュー 第36回庭野平和賞受賞者 ジョン・ポール・レデラック博士】 真の平和を目指して――紛争の見方を変える
俳句から多くの知見を得て
庭野 ご自身の人生で俳句、特に松尾芭蕉から強く影響を受けていると伺いました。紛争変革と通じる部分があるのですか。
レデラック その通りです。私が訪れる武力紛争地は非常に暴力が蔓延(まんえん)しており、人々は傷つき、苦しんでいます。武力紛争の長期化によって事態は複雑になり、なおかつ、さまざまな問題が一遍に押し寄せてくる非常に困難な状況があります。
また、そうした地域で、現地の人々と言葉にできない壮絶な体験を共有することがあります。例えば、わが子を戦争で失った母親との出会いで、彼女たちは言葉では言い表せない苦悩を抱えています。感情をため込み、苦しみ抜いて、ある瞬間に心にたまったものを本当にわずかな数の言葉で吐き出すことがあるのです。
こうした複雑な武力紛争地の状況、さらに、母親たちの悲しみを理解するために、私には俳句の考え方が必要だと思いました。ものすごく複雑なものをごく単純な形で表すことによって、全体の本質を描き出す――武力紛争地でのそうした体験を機に、俳句を学ぶようになりました。
現在は毎日俳句を詠んでいます。その習慣の中で自分自身が癒やしを得るという体験をしました。五感を研ぎ澄まして自然の音に耳を傾け、言葉にすることを重ねるうち、だんだんと忍耐強くなり、周囲の物事に注意深く目を向けられるようになったのです。俳句はとても示唆に富んでいます。
庭野 大学では後進の育成に努めていらっしゃいます。人材育成について考えをお聞かせください。
レデラック 人材育成の基本は、単に専門的な知識を与えるだけでなく、豊かな人間性を育むといった、全人的な教育が重要です。学生たち自身も主に、次の三つの疑問の答えを探しているからです。「私は誰か」「私はどこへ行くのか」「私の住処(すみか)は世界のどこにあるのか」。彼らがリーダーシップを発揮するために、私たち教育者は、彼らがこうした深い疑問に向き合い、考えるための十分な時間を与えなければいけません。
大学ではしばしば、学生が私の研究室に来て、「紛争変革とは何ですか」と聞いてきます。しかしその質問は口実にすぎず、先のような疑問を抱える彼らは、私と共に過ごすための時間を探しているのだと分かります。ですから、私は自分の講義の中で、「私と話をしたい人は一緒に学内を散歩しよう」と提案します。
肩と肩が触れ合う感じで散歩をすれば、学生との距離が縮まります。時には立ち止まり、向き合って話をするのですが、その時に学生の口から出てくる言葉は、「どうしたら世界を変えられるか」といった意義深い質問です。頭で考えた質問ではなく、体の内から湧き出てくる言葉です。ピアノの伴奏者のようにして、共に歩んでいくと、学生との間に真の対話が生まれるのです。
教育とは、最高の技術を身につけられるよう指導することではありません。一人ひとりの個性に合わせて関係を構築しながら、その人が持つ潜在能力をいかに最高のものにするか、その手助けをすることだと思います。