庭野平和財団GNHシンポジウム特集1 哲学者の内山氏を進行役に鼎談

地域の魅力を引き出し、なりわいに

内山 観光という言葉は中国から伝来した言葉で、日本ではかなり古くから使われてきました。「光を観せる」「光を観る」という二つの読み方ができます。光に人が寄ってくるイメージですね。人を集めるためにはどのような光を見せていくかがポイントですが、それは、その地域の暮らしや風土、景色、文化などでしょうね。

「わかとち未来会議」の細金氏

細金 私たちは、若栃の山村の暮らしに魅力を感じて来てくださるお客さんに満足して帰ってもらえるよう、努めています。私たちの集落は住民が少なく、受け入れられる人数も限られていますので、身の丈に合った観光を意識しています。

内山 長野県にも、細金さんの暮らす集落と似た景色の場所があります。そこでは、ある方が認知症を患った人のための施設を運営しています。施設は古民家を利用しているのですが、朝になると認知症の人たちが集まってきて、昼夕とご飯を皆で作って食べ、暗くなると家族が迎えに来てそれぞれ帰っていく。楽しそうにご飯を作るお年寄りの姿を見ていると、認知症であるという感じはしません。若い人も応援に来ますが、介護者ではなく、おしゃべりや食事を共にするだけです。ここに来ると認知症の程度が軽くなるようです。

なぜこのようなことが成り立つかというと、主に高齢者の皆さんが子供の頃に親しんだ景色が縁側に広がっているからです。ここに来るとなぜか和む。人間にとって無理のない世界と言いますか、それが人を元気にしてくれるのでしょう。自然は介護士であり、自然に助けられて生きている感じがするのです。

話は変わりますが、お二人は島と村でさまざまな事業をされていますね。

納戸 代表を務める「島の元気研究所」では、地域の資源を活用した産業の開発を手がけています。伊是名島は、お米を作っている珍しい島で、検査で規格外とされた米を使用して麺やプリン、玄米のアイスクリームなどを作っています。全てアレルゲンフリーです。アレルギーがあっても、全ての子供が一緒に笑い合いながら食べられる商品を、という発想です。

内山 そうした加工品も作っているし、納戸さんは古民家を活用して民宿も営んで、ご自宅はレストランをされています。これだけ多くのことをやっていくのは大変だろうと思いますが、元々日本人は「多職の民」であったようです。

地域に根ざして生きていると、自然の恵みや地域の人間関係からさまざまな仕事が生まれてきます。その中には、収入になるものもあれば、ボランティアのようなものもある。けれど、総合するとその風土の中で生きていける――。そういう生き方をかつて多くの人たちがしてきたわけです。

細金さんも非常に多職的ですね。山菜採りや家の雪下ろしも、一つの仕事だと思います。

細金 冬場は厳しいですね(笑)。しかし、自然は本当に豊かです。春に雪が解けて一面が青葉になる感動はこの上ない。年間を通じて四季を実感できますし、常に恵みを受けて生きています。

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