バチカンでウクライナ和平会議を——教皇レオ14世(海外通信・バチカン支局)

謁見する教皇レオ14世とゼレンスキー大統領(カーシャ・アルテミアク撮影)

米国のトランプ大統領は就任当時、同国主導によるウクライナ和平調停に関して楽観的な発言を行っていたが、それに反し、ロシアは今年5月以降、ウクライナへの侵攻を開始してから最大規模のドローン(無人機)、ミサイルによる攻撃を同国全土に向けて展開してきた。7月10日にはローマで「ウクライナ復興会議」が予定されていたが、ロシアは8日夜から9日にかけて、侵攻開始以来、一日の攻撃としては最多となる728機のドローンと13発の弾道ミサイルを発射して、ウクライナ全土を攻撃した。トランプ大統領が8日、停戦に応じないプーチン大統領を非難した直後だった。

「ウクライナ復興会議」に参加するためにローマを訪問中だったウクライナのゼレンスキー大統領は9日、ローマ郊外のカステルガンドルフォ避暑宮殿に休暇中の教皇レオ14世を訪ね、約30分間にわたり懇談した。バチカン記者室から公表された声明文は、2人が「和平へ向けての正義に適(かな)った、持続性のあるプロセス」について話し合ったと明らかにした。「友好的な雰囲気」での懇談の中で、「敵対関係に終止符を打つためには、対話が優先的な重要性を持つ」との確信が双方から表明された。戦争犠牲者たちに哀悼の意を表す教皇は、ウクライナ国民のための祈りと連帯を約束し、「戦争捕虜やロシアによって拉致されているウクライナ人の子どもたちの釈放のために、努力を分かち合う」必要性を訴えた。そして、バチカンの声明文は最後に、「和平折衝のためにロシアとウクライナの代表者をバチカンに受け入れる用意ができている」との教皇の発言を伝えている。

避暑宮殿の出口で、報道関係者たちに対しゼレンスキー大統領は、「もちろん、われわれは戦争の終結を望んでおり、そのためのハイレベルでのミーティングを提唱するバチカンと教皇の努力に期待している」と語った。だが、ロシア側は「2正教(ロシア正教会とウクライナ正教会)間の問題によって発生した戦争の調停は、バチカンにはできない」と発言し、バチカンでの和平会議の可能性を否定している。

ゼレンスキー大統領は、教皇との懇談後に投稿したX(旧ツイッター)の中で、「実質的な内容のあった教皇との懇談に感謝」しながら、「われわれは、ウクライナ和平に関する全ての支援と一つ一つの祈りを評価する」と述べた。「バチカンでの両国代表者による和平会議の可能性は、オープンであるし、全く可能でもある」とも記している。さらに、もう一つの投稿でゼレンスキー大統領は、ロシアによって拉致され、バチカンの調停などによって釈放されたウクライナ人の子どもたちを受け入れ、家庭・社会復帰を支援するバチカンとイタリアの努力に謝意を表した。

ローマで10日に開幕した「ウクライナ復興会議」には、約100の政府代表団、国際開発・復興に関する金融機関を含む40の国際機関、約2000の企業関係者ら約5000人が参加した。「日本企業の間でウクライナ進出の機運が高まっている」(12日付「朝日新聞」電子版)とのことだ。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)