史上初の米国人教皇の就任式典(海外通信・バチカン支局)

20万人を超える信徒が教皇レオ14世の就任式典に参集した=バチカンメディア提供
5月8日に選出された第267代ローマ教皇レオ14世の就任式典が18日、バチカン広場で挙行された。
式典に参列する約20万人の大群衆で広場が埋まり、バチカンへの参道であるコンチリアツィオーネ通りにも長蛇の列が及び始めた午前9時、白の法衣姿の教皇レオ14世が白の専用車に乗って広場に入り、広場の各区域とコンチリアツィオーネ通りを回り、手を振りながら挨拶していった。参集した大群衆は、拍手と「ヴィヴァ・パパ!」(教皇、万歳)と叫んで応えた。
就任式典は午前10時、聖ペトロ大聖堂(サンピエトロ大聖堂)内の聖ペテロ(初代教皇)の墓地の上に建立されている教皇祭壇の前で開始された。整列する枢機卿団を前に、レオ14世が初代教皇の墓地に向かって祈り、彼らと共に、広場の壇上にある祭壇へと向かい、就任ミサを開始した。ミサが進み、福音が朗読された後、代表枢機卿が「教皇ストール」(典礼用の肩から垂らす帯)と「漁師の指輪」を渡し、第267代のローマ教皇が正式に誕生した。「ストール」は、羊の毛を織って作られた帯であり、羊(信徒)を自身の命をかけて救う(十字架上のキリストのように)牧者(教皇を筆頭とするカトリック教会の指導者)の使命を象徴する。「漁師の指輪」は、初代教皇の聖ペテロが漁師の出身であったことから、教皇が彼の後継者であることを示すシンボルだ。
代表枢機卿、司教、神父たちからの「忠誠の誓い」を受けた新教皇は、福音書を四方に向けて高く掲げ、世界へキリストのメッセージを伝えていく意思を表示した。広場と参道を埋め尽くした大群衆が、新教皇を大きな拍手で迎えた。祭壇右側の貴賓席には、イタリアのマッタレッラ大統領、メローニ首相に率いられる使節団、新教皇が国籍を有する米国とペルーからは、それぞれ、バンス副大統領、ルビオ国務長官とボルアルテ大統領が列席した。ウクライナのゼレンスキー大統領の姿もあった。世界から参集した150を超える使節団の内には、22カ国(欧州連合を含む)の国家元首、21カ国の首相、9カ国の王、七つの国際機関の指導者などが含まれていた。カトリック教会以外のキリスト教諸教会の代表者は150人、世界の諸宗教代表者は、イスラーム、仏教、ヒンドゥー教、ジャイナ教、シーク教などの75人だった。立正佼成会からは、庭野光祥次代会長が列席した。
新教皇は、就任ミサの説教の中で、「教皇フランシスコの死が、私たちの心を悲しさで一杯にし」「牧者を失った羊のような戸惑いを感じさせたが」、「(教皇フランシスコは)復活祭の日に最後の祝福を与えることによって」「キリストが彼の民を見放されないことを教えた」と述べ、広場から湧き上がる拍手を受けた。「私が教皇に選ばれたのは、自分の能力が評価されたのではなく」「恐れと震えの中で受けた」と新教皇は告白。キリストが初代教皇のペテロに託した使命は、「悪と死の海から人類を救うために、彼らを漁することだ」と定義した。だが、人間を漁することは、「神の無限で無条件な愛を体験することによってのみ、可能となる」。人の漁は、「強制的な説得、宗教的プロパガンダ、権力によってなされるのではなく、キリストがなされたように、愛することによって実現されていく」のだ。さらに、カトリック教会が「和解された世界へ向けての酵母となっていくためには、教会自身が一致し、一致と交流のシンボルとなっていかなければならない」と強調。余りにも多い不協調、多過ぎる憎悪に起因する暴力、偏見、他者への恐怖、地球の資源を搾取し、貧者を疎外する経済政策が横行する世界にあって、カトリック教会は「一致、交流、友愛の小さな種になっていきたい」と言う。「このような宣教精神が、カトリック教会を動かし、自分たちの小さなグループに閉じこもらず、世界に対する優越感をも感じさせず、全ての人に神の愛を提供しながら、多様性を否定しない一致、各個人の歴史、各国民の社会、宗教文化を評価していくようにと誘う」と主張した。
就任ミサを終えた新教皇は、日曜恒例の正午の祈りを執り行い、「信仰の喜びと交流の時(就任ミサ)にあっても、戦争に苦しむ兄弟姉妹のことを忘れてはならない」とアピールした。「ガザ地区では、生き残った子ども、家族、老人たちが、飢餓に追い込まれている。ミャンマーでは、新しい闘争が若者や無辜(むこ)の人々の命を奪っている。義理堅いウクライナは、正義に適(かな)い、恒常的な和平へ向けての最終的な折衝を待っている」ということだ。このアピール後、レオ14世は聖ペトロ大聖堂内で、就任ミサに参列した各国元首や使節団の一人ひとりと握手を交わしながら、参列への謝意を表明した。
就任行事の全てを終えたレオ14世は、ウクライナのゼレンスキー大統領と懇談した。19日には米国のバンス副大統領とも会談し、ウクライナ和平へ向けて、バチカン平和外交による調停が再始動した。
また、教皇レオ14世は19日、バチカンの使徒宮殿(クレメンスホール)で就任式典に参列したカトリック教会以外のキリスト教諸教会及び世界の諸宗教の指導者たちと特別謁見(えっけん)に臨んだ。就任式典への参加に謝意を表しながら、「今日は、対話と橋を構築する時だ」と呼びかけた。教皇フランシスコを「普遍的友愛の教皇」「“皆が兄弟”(回勅)の教皇」と呼ぶレオ14世は、「(世界の諸宗教が)神と、神の意志を追求していくが、それは、愛と男女(人間)、全ての創造物の生命(尊重)へ向けた意思である」と述べ、諸宗教が有する「叡智(えいち)と慈しみ」を基盤とし、「人類の善と(人類に)共通の家(環境)の保全」に努力していくようにと訴えた。「暴力と紛争によって引き裂かれた世界」にあっては、協調に努め、イデオロギーや政治的な圧迫から解放されることによって、「戦争に“ノー”平和に“イエス”、軍拡に“ノー”軍縮に“イエス”、諸国民と地球を貧しくする経済に“ノー”人間の包括的な発展に“イエス”と言おう」とアピールした。
謁見で、光祥次代会長は「お元気ですか」と教皇の体調を気遣いながら、祖父である庭野日敬と教皇パウロ6世との出会いから立正佼成会が諸宗教との対話を大切に歩んできたことを説明。就任の祝意を伝え、庭野日鑛会長からの「お祝いのメッセージ」を手渡した。
(宮平宏・バチカン支局長)