人類救済の“二千年祭”に向けて世界に散在する枢機卿が選ぶ新教皇(海外通信・バチカン支局)

28日の追悼ミサを司式したバルダッサーレ・レイナ枢機卿(ローマ補佐司教)は、「今は、均衡主義、戦略、用心、反動、改悪、報復、権力同盟の時ではない」と述べ、迫るコンクラーベに対する警鐘を鳴らしながら、「宗教の壁を超えた教皇フランシスコによるカトリック教会の刷新を、吟味、再編成」していく必要性を説いた。新教皇には、「福音の精神が喪失されている恐怖に怯(おび)えるカトリック教会などの状況に対処」し、「非人間的な側面をも有する世界の中で、人間となった神であるキリストのまなざしを持つ指導者」の選出を訴えた。教皇フランシスコが、「人々によって普遍的な指導者として認知され、ペトロの船(カトリック教会)が、その枠を超えて人々を驚かせる、広大な地域に向けた航海を期待されている」からだ。

29日の追悼ミサでは、マウロ・ガンベッティ枢機卿(聖ペトロ大聖堂大司教)が、「世界の全ての人に門戸を開放するカトリック教会」を強調。30日の追悼ミサを司式したレオナルド・サンドリ枢機卿(東方教会省・名誉長官)は、教皇フランシスコが今年の聖年を公布した勅令の中で、自身の受難、十字架上の死、復活を通して人類を救済したキリストの「二千年祭」(キリストが33歳で亡くなったことにちなみ2033年)に言及し、「キリスト教徒にとって根本的な出来事」へ向けての「ビジョンと夢」を実現するための「新教皇の選出」と、今回のコンクラーベを位置付けた。

追悼ミサと並行して、シノドス・ホール(世界司教会議室)で毎日(日曜日を除く)開かれている枢機卿会議では、世界の状況下でのカトリック教会の役割を検討し、新教皇の横顔を模索している。29日、枢機卿会議で行われた「黙想会」を指導したドナト・オリアリ枢機卿(ローマ城壁外の聖パウロ教会院長)は、「教皇フランシスコが奨励したように、キリストに根を張る教会は、相互尊敬、対話、出会いの文化、壁ではなく橋の構築を推進する言動によって特徴付けられる」と定義した。「キリストに根を張る教会」は、自画自賛をやめ、自身の壁を打ち破って、カトリック教会に属さない人類家族の兄弟姉妹、特に生の意味を見いだせない人々、社会の底辺に押しやられて排除されている人々に手を差し伸べていくという。教皇フランシスコが推進したカトリック教会の刷新は、これからも発展されなければならないと主張し、倫理・道徳的側面から深く人間存在の概念に関連してくる人間学的な変化(同性愛など)、諸国民間での制圧、闘争、兄弟相殺を規制し、人類の共存を支える国際法の蹂躙(じゅうりん)、新民主主義と国家主義の台頭、世界秩序を混乱に陥れる君主制度、利益のみを追求して人間の尊厳性を全く無視する資本主義後の自由主義、私たちに共通の家である創造(自然)の破壊、科学技術の進歩が人間生活に与える影響、人間がいつかAI(人工知能)に征服されるという恐るべき展望、世界レベルで展開される移民に関わる問題に対処しない政治、世俗主義と実存世界から消却される神の存在、人間生命の技術・効用的な概念と歴史、キリスト教徒の宿命に関する意味の喪失など、世界の諸問題を挙げ、こうした現代社会からの挑戦に応えていくカトリック教会の最高指導者を選出するようにと訴えた。

枢機卿たちは、一日に1回の枢機卿会議を、5月5日には2回に増やすことを決議。会議を通して、彼らの望む新教皇のイメージが少しずつ見え始めている。それは、「世界秩序の危機に遭遇する今、混迷している人類家族との交流を促進し、彼らの間で、彼らの近くにあり、彼らとの間に橋を構築することで導いていく教皇」「人々の具体的な生活に近くある司牧者(指導者)」「信仰の継承、創造(環境)の保全、戦争、世界の分断など、多くの挑戦に対処していく教皇」である。さらに、「教会内部の分断(同性愛者の祝福、離婚者の教会内への受け入れなど)に対する憂慮」をも表明した。

また、「カトリック教会の壁を超えて、他宗教、他文化の世界との間で対話と橋を構築していく教皇」が提唱され、「セクト宗教の台頭問題」についても討議された。コンクラーベ前の最終会議では、教皇フランシスコが提唱した、聖職者による子どもへの性加害問題の対処、バチカン財政の透明化、バチカン諸機関の再編成、シノダリティ(世界司教代表者会議による合議制)の促進、世界平和と創造(環境)の保全などに関する改革が継続されていく必要があると強調された。新教皇のプロフィールに関しては、「人間性の教師で、人類の必要性に応え、傷を癒やす司牧者」の姿が浮かび上がり、「戦争、暴力、強き分断に支配される世界にあって、慈しみ、シノダリティ、希望を提供する霊的指導力が必要とされる」と主張された。

枢機卿会議で新教皇候補の人選が進められる中、コンクラーベ取材のためバチカンに参集した4000人ともいわれる報道関係者たちは連日、新教皇の「下馬評」を伝え続けた。多くは、3代にわたりイタリア人でない外国人教皇が続いたため、今回はイタリア人が選出されるのではないかとの予測が強まっている。イタリアのメディアは、現バチカン国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿(中道)、聖都エルサレム大司教のピエルバッティスタ・ピッザバッラ枢機卿(フランシスコ会/中道)、聖エジディオ共同体の指導者として育ち、ウクライナ和平に関する教皇特使を務め、教皇フランシスコの改革路線を継承するといわれるマテオ・ズッピ枢機卿(イタリア司教会議議長/ボローニャ大司教)を有力視する。保守派の新教皇候補は、ハンガリーのペーテル・エルドー枢機卿(ブダペスト大司教)が挙げられている。フィリピン、コンゴからの新教皇選出も噂(うわさ)されているが、可能性は少ないとの判断だ。だが、報道関係者の出す下馬評は、当たらないことが通例となっている。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)