「核兵器禁止条約と世界の諸宗教者」など海外の宗教ニュース(海外通信・バチカン支局)

核兵器禁止条約と世界の諸宗教者
米・ニューヨークの国連本部で3月3日から7日まで、「第3回核兵器禁止条約締約国会議」が開催された。
同条約はこれまでに94の国と地域が署名、73の国と地域が批准している。同条約を既に承認しているバチカン市国の常駐代表を務めるガブリエレ・カッチャ大司教は4日、締約国会議で演説し、世界レベルでの「核の抑止論を基盤とする説話の回帰」と「核による脅威を使用した危険なる幻影」についての憂慮を表明した。
カッチャ大司教は抑止論や軍拡によってではなく、友愛によって保障される平和と安全保障を強調し、新世代に対して安全な未来を提供する国際社会の責任をアピール。「今年は、広島、長崎への原爆投下から80年である」と指摘し、「この大量破壊兵器が引き起こす、類例のない苦について思い起すことは、極限的に重要である」と主張した。核兵器が、「深く、永続する弊害」を起こし、「数世代にわたり、爆撃された共同体を蝕(むしば)んでいく」からだ。また、ただ単に「即時に失われる生命だけではなく、長期間にわたる心理的、文化的、環境的な破壊をも引き起こす」と言及。世界での「紛争や分裂の増加」に伴う「不信感と恐怖の蔓延(まんえん)」を憂慮するカッチャ大司教は、あまりにも多くの国々が、「貧困や飢餓の克服といった世界的問題」ではなく、「武器の蓄積のために貴重な資源を向けている」と非難する。したがって、「安全保障、人間の全体的発展や平和のための投資」という「優先課題の再編成」が急務だ。さらに「戦争に聖戦はなく、平和のみが聖である」と主張し、「抑止という危険な均衡ではなく、われわれを結び付ける友愛を基盤とする安定した恒常的な平和」を訴える。この視点から、同条約が「多くの課題を抱え、憂慮すべき傾向に立ち向かいながらも」「世界レベルでの軍縮の構築形態における危機的欠陥を埋める」「希望と発展の燈明(とうみょう)である」と定義した。
国連本部での第3回核兵器禁止条約締約国会議と並行し、世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)とアフリカ諸宗教指導者評議会は3月4日、ニューヨークで「核兵器廃絶のための道徳的義務に関する宗教間、世代間、セクター間の対話」と題する関連行事(サイドイベント)を共催した。世界教会協議会(WCC)のプレスリリースが6日、伝えた。
参加者たちは、「核の抑止論と人間生命、人間の尊厳性、地球の擁護との間における矛盾」「核兵器の使用が誘発する人道や環境に及ぼす危険性と、核兵器を廃絶していく道徳的、倫理的、宗教的義務」を指摘しながら、同条約が人類に対して「平和と聖で、分かち合われた人間生命の繁栄を保障する」と強調した。分科会では、「核兵器が及ぼす甚大なる人道的、環境的な被害に関する無理解」や「核兵器が突きつける超国家的側面に対する、各国の法的対処に関する枠組みの欠陥」が指摘され、「放射能を浴びた(原爆や核実験の)生存者や先住民の声を代弁するためのイニシアチブ」についても討議された。また、「世界の諸宗教が、それぞれの有する人道機関のネットワークを使用して、軍事費を社会的、環境的福祉へと方向転換させていく」こともアピールされた。同行事は、『核兵器に憂慮する信仰共同体」』と題する行動計画書を採択し、閉幕した。
さらに、世界の107に及ぶ信仰を基盤とするグループは5日、「恐るべき広島と長崎への原爆投下から80年」に際し、「あのような非人間的な兵器によって、想像もできない苦痛を体験した被爆者たちを、厳かに思い起す」との合同声明文を公表した。そして、「私たちは、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)へのノーベル平和賞の授与と、核兵器なき世界へ向けた牽引(けんいん)者としての、彼らの絶え間なく、勇気あるリーダーシップに敬意を表する」とも宣言した。「核兵器が再び使われないことを祈る」世界の諸宗教指導者たちは、「信仰を持つ多くの勇気ある個人が、各自の信仰の要請に従って、核兵器に反対してきた」と指摘し、それが故に、「私たちは、信仰共同体として今日、一致して声を上げる」のだと強調。声明文は、被爆者の深い苦痛、核実験による被害を受けた先住民の共同体、核軍備拡張競争による苦しみに耐えてきた全ての人々に思いを馳(は)せる。そして、「人類の未来は、核兵器の無い世界」であり、「この分かち合われた確信によって、われわれは今日、ここに集まり、われわれの世界が破壊に向かって進んでいることに反意を表明する」と主張した。
原水爆禁止日本協議会(原水協)などが3月5日に共催したイベントでは、米国による太平洋のビキニ環礁での核実験で被爆した元漁船員の長女、下本節子さんが、「これ以上被害者を増やさない努力をしてほしい」と市民らに訴えた。米国が80年前の1945年3月5日にビキニ環礁で実施した核実験は、広島に投下された原爆の1000倍の破壊力を有する強力なものであった。マーシャル諸島共和国は、毎年3月1日を「核実験犠牲者の追憶日」と定めている。同国の欧州国連本部常駐代表部とWCCは2月28日、ジュネーブで各国大使、諸国の国連常駐代表、国連諸機関、非政府組織の参加を得て、1946年から58年に米国がマーシャル諸島で実行した核実験の犠牲者や生存者に思いを馳せ、「責任、正義、核兵器の廃絶」を求める記念日を共催した。