「2国家原則と聖都エルサレム問題——アッバス議長のバチカン訪問」(海外通信・バチカン支局)

パレスチナ自治政府のマフムード・アッバス議長は12月12日、パレスチナを国家として認めているバチカンを訪問し、ローマ教皇フランシスコと約30分にわたって懇談した。

同議長は教皇との懇談後、国務省で国務長官のピエトロ・パロリン枢機卿、同省外務局長のポール・リチャード・ギャラガー大司教と会談。「ガザ地区における重大なる人道危機に対する救援活動を含めた、パレスチナ社会でのカトリック教会からの重要なる貢献」について話し合われ、同地区での「即刻なる停戦と(イスラーム組織ハマスによって拉致されているイスラエル人の)人質の釈放」が要望されたとのことだ。

バチカン記者室が公表した声明文では、「あらゆる形でのテロ攻撃を非難」すると同時に「対話と外交活動によって到達される2国家解決策と中東3大宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラーム)の出会いと友愛の場」「特別区として(国際法によって)保護される聖都エルサレム」について合意したと伝えられている。最後に、両者が、2025年のカトリックの聖年を機会に、巡礼者たちが平和を希求する聖都に再び戻ってこられるように切望した、とのことだ。

教皇との謁見(えっけん)後に「バチカンメディア」のインタビューに応じたアッバス議長は、教皇を「旧友」と呼び、「教皇の度重なる中東和平のためのアピールと、パレスチナ人の戦争犠牲者たちに対する連帯の表明に感謝」した。そして、「教皇が国際社会において、パレスチナ国家の承認へ向けての動きを促進していくように」と願い、「真に中東和平を実現したいなら、2国家原則の実現以外の道はない」との確信を明らかにした。

パレスチナ使節団の団員の一人として、アッバス議長のバチカン訪問に同行したカトリック教会の聖地(エルサレム)管理局のイブラヒム・ファルタス神父は、ローマ教皇庁外国宣教会(PIME)国際通信社「アジアニュース」に掲載されたインタビュー記事の中で、「私自身の個人的見解だが」と前置きしながらも、「一週間以内、というのはクリスマス以前に、イスラエルとハマスとの間での停戦合意が成立するだろう」と予告した。彼は、「去年の(ガザ戦争に苦しんだ)クリスマスとは違って、今年は“希望のクリスマス”が祝えるのではないか」と切望している。

教皇は13日、レバノンのナジブ・ミカティ首相と会見した。その後、同首相はパロリン国務長官、ギャラガー外務局長との懇談において、「長期間にわたって不在となっている同国大統領の選出問題にも関連する(劇的な状況にあるレバノンの)社会・経済状況」に言及した。また、「レバノン南部における(イスラエルとイスラーム・シーア派政治・武装組織ヒズボラとの間の)停戦合意に喜びを表明する」両者は、「停戦合意が確固としたものとなることを願い」「レバノン国家のアイデンティティーを構成する諸宗教間での平和共存が、国家状況改善の助けとなり、中東和平をも支援していけるように」と希求した。

イタリアの「ANSA通信」は14日、「ガザ地区での停戦にとって、またとない機会が訪れている」というハマスの中枢幹部の発言を伝えた。「もし、米国のトランプ次期大統領が、この停戦合意を妨げないようにイスラエルのネタニヤフ首相を説得するなら、三つの段階を踏んだ停戦合意が可能であり、その合意を年内にも成立させることができる」というのだ。同通信社はさらに、停戦仲介者側の話として、「停戦合意に向けて目に見える進展」があるが、「折衝は細心の注意を払って展開されている」とも伝えている。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)