オリンピック停戦の実行を――教皇(海外通信・バチカン支局)
フランス・パリのマドレーヌ教会で7月19日、パリオリンピック(7月26日から8月11日まで)の「オリンピック停戦開始のためのミサ」が挙行され、ローマ教皇フランシスコが「オリンピック本来の姿は、平和をもたらすことであって、戦争ではない」というメッセージを送った。
同ミサには、カトリック教会の聖職者や信徒に加え、国際オリンピック委員会のトーマス・バッハ委員長、アンヌ・イダルゴ・パリ市長、フランス政府閣僚らが参列。オリンピックの開催期間中は停戦する、という慣習は紀元前8世紀頃にギリシャの諸王国間で署名され、その後に諸都市間で協定として制定された。停戦は、開催期間の前後7日間をも含めて、全ての戦いを中止し、実行されてきた。
教皇は、同ミサでのメッセージの中で、オリンピック停戦という慣習を「叡智(えいち)の伝統」と評価。「この困難な時にあって、平和が真の脅威にさらされているが、全ての人によってこの停戦が尊重され、紛争解決に向かい、調和が再構築されるよう強く願う」とアピールした。
また、「政権の座にある者たちが、彼らの重責に気づき、彼らの良心を光明で照らし、平和の構築者たちに対して、彼らの努力が報いられるよう祝福してください」と神に祈った。
さらに、スポーツの普遍性は、「国境、言語、人種、国籍、宗教を超える」と強調。競技が「人々を結び付け、対話を奨励し、相互の受け入れを促進して、人間精神の発展と自己の限界の超越を鼓舞する」「犠牲の精神を促進し、個人間の関係で誠実さを奨励し、自身の限界と他者の能力を認知することを促す」とも呼びかけた。そして、オリンピック・シンボル(五輪マーク)に象徴されるように、「敵対国をも含めて、諸国民間の例外的な出会いの場」となるよう願うと同時に、「憎悪や偏見をも打ち破っていく場」になることを希求した。
停戦開始のためのミサを司式したパリのローラン・ウルリッヒ大司教は、ミサの説教で「残念ながら、パリでのオリンピック開催中も戦争は止(や)まないだろう。だが、開催を可能としたさまざまな出会いによって、平和の希求が広まっていく」と述べた。
国連広報センターが「オリンピック協定は、過去12世紀の間、オリンピック大会の拠り所としてその役割を果たし、大部分は忠実に順守されてきました」と示すように、この停戦協定の精神は、現代では国連によって継承されてきた。国連総会は1993年、ノルウェーのリレハンメル冬季五輪に際し、『スポーツとオリンピックの理想を通じた平和でより良い世界の構築』と題する決議案を採択。毎回、各大会前の秋に開催国が提案し、オリンピック停戦を訴え続けてきた。
パリオリンピックでは昨年11月、開催国のフランスが加盟国に対し、全紛争の休戦を求める決議案を提出し、118カ国の賛成を得て採択された。ロシアとシリアが棄権、反対はゼロだった。アラブ諸国は、イスラエルのガザ侵攻を挙げて非難した。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)