教皇がメッセージ――ノルマンディー上陸作戦80年、ローマ解放80周年の記念に際して(海外通信・バチカン支局)
日本では、来年の8月に原爆投下と第二次世界大戦の終戦80周年記念日が巡ってくる。欧州では6月6日、欧州戦線の終焉(しゅうえん)を決定的にした連合軍によるフランスでの「ノルマンディー上陸作戦」から80年の記念式典が執り行われ、欧米の首脳が参加した。
首脳陣は、ナチス・ドイツを敗戦に追い込んだノルマンディー上陸作戦を、ロシアのウクライナ侵攻に重ね合わせてスピーチ。バイデン米大統領は、同作戦で戦死した兵士たちが、「自由や民主主義は生命を捧げるだけの価値があると確信していた」と語り、9300人を超える米兵の犠牲を追悼した。
これに先立つ5日、ローマ教皇フランシスコは、ノルマンディーのバイユーにある司教座聖堂で、翌6日に執り行われる80周年記念式典ミサに向けてメッセージを公表した。同式典には、行政関係者、宗教者や軍人らが参加した。
教皇は、メッセージの中で、ノルマンディー上陸作戦を「自由への回帰を獲得するための、巨大で心に残る集団的軍事活動」と定義。遠方から参戦した多数の若い兵士たちが、「第二次世界大戦の終結と平和回復のため、自らの生命を英雄的に捧げた」と追憶した。
さらに、80周年記念日に際し、「(戦争を)弾劾し、究極的な拒否をせずに記憶することは、無用であり、偽善だ」と厳しい表現で非難。教皇パウロ六世が1965年10月4日の国連演説で、「もう、戦争を繰り返すまい!」と叫んだことを思い起こすようにと訴えた。
教皇パウロ六世の呼びかけのように、「数十年間、過去の過ちを記憶することで新たな世界大戦を勃発させないようにとの確固たる意志が支持されてきた。だが、悲しいかな、現代ではその意思が覆され、人間の記憶の短さを露呈している」と嘆いた。同作戦の80周年記念日が、「私たちの記憶を再発見させてくれますように」と祈りを捧げた。
また、「(新しい)世界大戦が勃発する可能性を、真剣に考えている」と、現状に対する憂慮を表明。「人々が、この容認できない状況に少しずつ慣れてきている」と警鐘を鳴らした。そして、人類が第二次大戦による廃虚から立ち上がるために夢を託した国際法の制定を、「イデオロギー、ナショナリズム、経済的野望のために破壊することは、人間、歴史、神に対する罪である」と糾弾した。
最後に、教皇は、戦争を望み、勃発させ、無用に扇動、継続、長期化させて、皮肉にも利益を得る者たちのために祈り、「神が彼らの心に光明をもたらすように、彼らが戦禍を自らの眼で見るようにさせてください」と願い、メッセージを結んだ。