バチカンがベサク祭にメッセージ―共に平和の構築を(海外通信・バチカン支局)

バチカン諸宗教対話省は5月6日、仏教徒たちが釈尊の誕生、成道(悟り)、入寂(にゅうじゃく)などを同時に祝う「ベサク祭」に際し、世界の仏教徒に宛てて、『和解と反動力(resilience―攻撃的ではなく弾力性のある抵抗力)を通した平和のための協調』と題するメッセージを、バチカン記者室から公表した。

この中で、同省は、1965年に国連で「戦争を絶対に繰り返してはならない!」と叫んだ教皇パウロ六世の呼びかけを引用。「戦争へと導く憎悪と報復への欲望に終止符を打つ」「戦争が人類と、われわれに『共通の家』である地球に対して引き起こした傷痕を癒やしていく」ことを目指し、仏教徒とキリスト教徒が共に「和解と反動力を構築するために協調しなければならない」と訴えた。

さらに、さまざまな紛争や暴力の、より根深い原因として、「政治、経済、文化の分野における平等と正義」に関する問題を指摘。平和と和解を求めて、これらの問題に対処していくことが、われわれを「恐ろしさ、苦痛、退廃、真理に直面」させるが、「平和と和解への道」のために避けては通れないと強調した。

そして、両宗教の有する「高貴な教えと、われわれの敬う祖師(釈尊とキリスト)の模範的な生活が、豊かな和解と反動力の証し」と表明。「反動力が、個人と共同体に対して、逆境や衝撃から立ち直る力を与えてくれる」とし、その忍耐強い力は、「明るい未来に向けた勇気と希望を提供」し、不平等と不正義の実行者、その犠牲者の双方を、「新しい生活に向けて導く」と示した。「和解と反動力が一致すれば、過去の傷痕を癒やし、強い絆を構築して、実生活のさまざまな挑戦に対して、堅固さと楽観主義によって対処していくための力強い相互作用」になるのだという。

このため、同省は、和解と反動力が、「攻撃的な軍事活動やテロに抗するために必要だと正当化される、暴力の文化に対抗する解決策になる」と期待を寄せた。「和解と反動力は、われわれに許しを求め、愛するだけでなく、われわれに対して過ちを犯した人々を含め、全ての人に平和のうちに生きる力を与えてくれる」からだ。

さらに、法句経(ほっくぎょう)の「怨(うら)みは怨みによって報いれば、ついに消えることはない。怨みを捨てるとき、それが消えるのである」との一節を引用。怨みを乗り越えるために釈尊が説いた「愛情深い優しさ」(loving-kindness)を挙げた。この表現は、ローマ教皇フランシスコのスピーチでもよく登場するものだ。教皇は、神の愛をイタリア語で、神の「愛情籠(こ)もる優しさ」(tenerezza)と説いている。

また、同省は、カンボジアでのポル・ポト派による大虐殺を体験した仏教指導者であるマハ・ゴーサナンダ師(第15回庭野平和賞受賞者)が、「われわれの心から憎悪という地雷を除去するように」と訴え、平和と自然環境の保護に対する意識を高める仏教徒による行進「ダンマヤトラ(法の巡礼)」を実現したことを紹介。同師の「時限のない叡智」を追憶し、メッセージを結んでいる。

韓国・ソウルの廉洙政カトリック大司教も、同国最大の仏教教団である曹渓宗に宛てて、釈尊の生誕を祝うメッセージを送付。2027年にソウル市で開催予定である『カトリック青年世界大会』(WYD/教皇の参加が慣習)への仏教徒の参加を呼びかけた。

ローマ教皇庁宣教事業部国際通信社「フィデス」の報道(5月10日)によると、廉大司教は、今年のベサク祭のモットー「意識(心)の平和と世界の幸福」に言及し、「諸宗教共同体は、飽くことなく平和を追求していくために、連帯と協調によって一致していかなければならない」と訴えた。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)