第14回善知識研究会 地域の魅力を再発見 活性化への可能性探る

『ネット時代のつながりの豊かさと危うさ』と題して講演を行う井上氏(「Zoom」の画面)

『内の魅力を知り、外と繋がる―自分らしさと地域における誇りの再発見―』をテーマに、立正佼成会中央学術研究所による「第14回善知識研究会」が10月28日、オンラインで開かれた。同研究所外部講師、客員研究員、教会長、本部職員、会員など約70人が出席した。

同研究会は、教団を取り巻く今日的課題に対して熟議を重ね、よりよい社会の実現と教団の発展に資することを目的としたもの。今回は、人と人との交流の中で地域の魅力を再発見し、地元住民が地域再生の担い手となって、その地域の課題に取り組んだ事例を学び、本会が地域の活性化に寄与できる可能性を探った。

当日は、國學院大學名誉教授で、国際宗教研究所宗教情報リサーチセンター長の井上順孝氏が『ネット時代のつながりの豊かさと危うさ』と題して、基調講演を行った。

井上氏は、冒頭、インターネットが発達した時代(ネット時代)の人間関係について、対面での交流とネット上の交流という二重構造で、複雑化しながら広がっていると説明。新宗教の信者同士のつながりも同様で、対面だけでなくオンラインでのつながりも増えているとし、インターネットを介した情報は瞬時に、多くの人に伝わるが、教えを正確に伝えることや信者間の結びつきには困難が生じやすくなると示した。

その上で、ネット時代のつながりを布教伝道にどう活用するかを考察。人間がぼんやりと考え事をしている時に働いている脳の神経回路(デフォルトモードネットワーク)が、人間社会の情報交換の仕組みと共通していることに着目し、一見すると共有する目的を持たないような人が、実はネットワークを広げてくれる可能性があると示唆した。

また、SNSによる情報伝達の傾向として、感情に訴える情報は「バズる(注目される)」が、体系的な説明には興味が向きにくく、宗教についての情報も同じ傾向があると指摘。インターネットは役に立つ面もあるが、誤情報を信じ込むといった負の面もあるため、対面によるコミュニケーションは欠かせず、感情に訴え、つながりをつくることの意味を語り伝えることが人を動かすポイントになると結んだ。

犬や猫のフィギュアも情景に加わる「あおぞら図書」の鉄道ジオラマ(「Zoom」の画面)

続いて、本会附属佼成図書館員と本会中央学術研究所学術研究室員による『「あおぞら図書」事例報告』と、東北大学大学院薬学研究科准教授で仙台あおばの会副代表の平塚真弘氏による『「仙台あおばの会」の挑戦:コロナ禍にオンライン市民大学を開講!』の発表が行われた。

「あおぞら図書」は、今年、開館70周年を迎えた佼成図書館が「より多くの人に知ってもらいたい。地域の人たちとつながりたい」との願いで実施した取り組み。毎月1回、図書館の中庭で、小説や絵本、児童書など宗教専門書以外の書籍を閲覧できるように提供し、読み聞かせをはじめ、折り紙遊びや季節ごとのイベントの開催のほか、図書館内に大聖堂周辺のジオラマ(立体模型)に鉄道模型を走らせて展示するなど、全年齢が楽しめるように工夫を凝らしている。利用する子どもたちが楽しく遊びながら、図書館や本に親しむ姿に触れ、携わる職員自身が、自分の仏性を実感し、日々の業務にも活力が湧いてきたと報告。今後も「誰でも自由に利用できる。ここに来れば誰かがいる。みんなが集まれる場所」をコンセプトに開催を予定していると語った。

次に、平塚氏が「仙台あおばの会」の取り組みを発表した。同会は、2016年に本会仙台教会会員を含む宮城県内の学識経験者や社会貢献活動に励む人たちによって設立された。地域社会が抱える課題に協働して取り組むことを目指し、メンバーが定期的に研さんを重ねるほか、一般市民向けの講演会などを開いてきた。しかし、コロナ禍によって参集型の講演会は中止に。オンラインによる「市民大学」の開講に切り替えた。タイムリーな情報の提供・共有を目指し、毎月2回、1時間の動画「あおば市民大学」を配信。有識者によるネットワークの拡大にもつながり、「ピンチはチャンスだったと後に気づきました。今後はオンラインと対面のバランスを取りながら活動を継続させたい」と述べた。

この後、橋本雅史中央学術研究所所長を議長にパネルディスカッションが行われた。橋本所長が今回の研究会の背景となる「あおぞら図書」の開催経緯を説明。続く質疑応答では、参加者が現代社会における布教の在り方について考えを深め合った。