教皇とバイデン米大統領が中東情勢を巡り電話で会談(海外通信・バチカン支局)

国連安保理の閣僚級会議では、グテーレス事務総長とイスラエル側の間で一波乱があった。グテーレス事務総長は、開幕のスピーチで、ハマスの攻撃を「驚愕(きょうがく)すべき」「恐るべき」と非難しながらも、「パレスチナ人は、56年にわたり(イスラエルによる)息が詰まるような占領に苦しんできた」と発言したのだ。イスラエル人の入植で土地を奪われ、暴力に苦しめられ、経済を圧迫され、住居の破壊、家族の離散によりパレスチナ問題の政治的解決に向けた希望さえも消滅してしまったとの認識からだ。グテーレス事務総長は、「ハマスによる攻撃は、無から生まれたものではないと認知することが重要」と強調した。

さらに、イスラエルによるガザ地区の空爆に言及し、「国際人道法の遵守(じゅんしゅ)」「一般市民や病院の尊重と擁護、国連機関の侵害できない尊重」という規則が戦争にもあると主張。イスラエルによるパレスチナ市民に対する「集団処罰」も非難した。イスラエル軍の空爆によって、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員がこの2週間で少なくとも35人死亡したことを悲しみ、「彼らの家族のためにも、空爆を非難せざるを得ない」と発言した。

グテーレス事務総長は、武力紛争での一般市民の擁護は基本的義務であると主張。一般市民を「人の盾」としたり、100万人を超える一般市民に南部への退避を強制したりする戦略を非難し、「ガザにおける国際人道法の蹂躙(じゅうりん)に深い憂慮」を表明した。パレスチナ人の苦しみを軽減し、人質の解放を目指すためにも「人道目的の即時停戦」を訴えた。だが、紛争当事者たちが忘れてはいけないのは、「真の和平と安定のための現実的基盤は、2国家原則」であり、それを実現するための「国連諸決議案、国際法、既定合意事項の遵守」であると警告した。スピーチに対し、イスラエル側は、「国連事務総長が世間離れした世界に生きている」「国連との関係を見直す」と批判し、事務総長の辞職を要求した。

その後、国連安保理では、ガザ地区の人道状況を改善するための「一時的な戦闘中断」について決議案の審議がなされたが、どれも、米国、中国、ロシアによる拒否権行使の応酬で採択されなかった。

国連安保理の麻痺(まひ)状態を背景に、国連総会は27日、ヨルダンが提出した、ハマスの責任を言及せず、「人道目的の休戦」を求める決議案を賛成多数で可決した。「ハマスのテロ行為の責任(のみ)を明記」した、イスラエル寄りのカナダ(米国)が提出した決議案は否決された。イスラエルの責任について沈黙を守る風潮に対し、国連総会の参加国間で不満が表面化したものと判断されている。

ヨルダンのラーニア王妃は、欧米諸国が「なぜイスラエル側に偏るのか。欧米のメディアや政治家は、すぐイスラエルに都合のいい物語を採用する。(人が死亡した場合)パレスチナ人は『死ぬ』と表現され、イスラエル人は『殺される』と表現される」(毎日新聞10月26日付)と発言し、欧米諸国の「二重基準」姿勢を批判した。

バチカン報道官のマテオ・ブルーニ氏は26日、教皇がトルコのエルドアン大統領から電話会談の要請を受け、「聖地における劇的な状況」について話し合ったと公表した。教皇はガザ地区の状況に「苦痛」を表明しながら、「聖座の公式見解」を伝え、「2国家原則と、聖都エルサレムを(国際法の管理下に置く)特別区と定める解決策が実現されるように願った」とのことだ。

エルドアン大統領は、別の場で、「ハマスはテロ組織でなく、パレスチナの解放者だ」「イスラエルは戦争犯罪国家だ」との見解を表明していた。

また、ブルーニ報道官は30日、バチカン国務省外務局長のポール・リチャード・ギャラガー大司教が同日、イランのホセイン・アミール・アブドラヒアン外相から電話会談の要請を受け、「イスラエルとパレスチナで展開されている出来事に対する聖座の深い憂慮」を表明。「紛争の拡大を回避していく絶対的な必要性」「中東に安定的、恒常的な和平をもたらす2国家原則」を強調したと伝えた。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)