ガザ地区で攻撃される宗教施設(海外通信・バチカン支局)

イスラーム過激派組織ハマスが実効支配し、イスラエル軍による空爆が続くパレスチナ領ガザ地区で10月17日、英国国教会(中東聖公会)の運営する「アル・アハリ病院」が攻撃を受け、500人とも推定(18日現在)される死者が出た。犠牲者の多くはパレスチナ人で、約6000人が病院前の広場に避難していた。

同病院は14日にもミサイル攻撃を受けており、エルサレムの英国国教会指導者、ガザ地区保健当局、病院にいた目撃者たちは、一斉にイスラエル軍の攻撃と非難した。だが、イスラエル側は、ハマスと協調する過激派組織イスラーム聖戦(PIJ)による「誤爆」と断定し、関与を否定している。

「アル・アハリ病院」は1882年に創設され、ガザ地区で最も古い歴史を有する医療施設だ。英国国教会のエルサレム教区が運営し、患者の民族、宗教、イデオロギーを問わず治療活動を展開してきた。年間3万6000人の入院、外来患者を診療し、産婦人科や小児科、24時間対応の救急施設も併設している。

英国国教会の最高指導者であるジャスティン・ウェルビー・カンタベリー大主教は翌18日、声明文を発表し、アル・アハリ病院に対する攻撃を「恐ろしく破壊的な、無実の人々の生命の破壊」「大災害」と糾弾。「この破壊的な戦争において、一般市民が保護されるように」と訴えた。また、イスラエル軍によるガザ地区北部からの退避勧告が解除され、医療施設、医療従事者、患者が保護されるようにと願った。

同病院のスハイラ・タラジ院長は、「現状では、死の情景の中で起こる神の奇跡に希望を託す以外にすべがない」「多くの必要な医薬品が底を突き、病院前の広場は負傷した人々の群れで埋まっている」と話し、「イスラエル政府は一刻も早く、人道支援通路を開放するように」と切願している。

英国国教会の属する世界教会協議会(WCC)のジェリー・ピレー総幹事は17日、声明文を発表。「アル・アハリ病院の空爆はイスラエル軍によるもの」とし、「家を追われた数千のパレスチナ人が病院に避難していた」と伝え、「医療施設の空爆を通したパレスチナ人への攻撃は、国際法による戦争犯罪である」と糾弾した。

さらに「国際社会は、イスラエルの一般市民に対する犯罪を追及しなければならない」と主張し、「ガザでの悲劇的な出来事が、パレスチナ人とイスラエル人とが平和、尊厳性、安全保障を享受できる未来への動力となるように」と願った。

アル・アハリ病院の攻撃は、バイデン米大統領がヨルダンで18日に予定していた、同国のアブドラ国王、エジプトのシーシ大統領、パレスチナ自治政府のアッバス議長との4者会談を中止させた。翌19日には、イスラエル軍がガザ地区にあるギリシャ正教の聖ポロフィリオス教会を空爆。同教会の施設に避難していた、少なくとも17人のパレスチナ人が死亡した。

聖ポロフィリオス教会は、1150年に建立され、現在も使われている教会としてはガザ地区でも最も古く、文化遺産としての価値があった。教会自体は破壊をまぬがれたが、敷地内の施設が破壊された。

エルサレムの正教会大主教区は、「無実の市民に対する空爆から、彼らを保護するために開放されている教会と関連施設を攻撃することは、無視できない戦争犯罪だ」とする声明文を公表した。

ピレー総幹事も20日に声明を発表し、「聖域に対する非道な攻撃を非難し、世界の共同体に向かって、ガザの病院、学校、礼拝所を含む、侵害できない避難所の保護を訴える」と明かした。

エルサレムにウェルビー大主教を迎えた聖都のキリスト教指導者たちは、合同声明文を公表し、「事前の通告なく実行された聖ポロフィリオス教会に対する空爆を糾弾」すると同時に、イスラエル軍による退避命令を非難し、「われわれは、キリスト教の使命を遂行するため、人間に対する愛徳を実践する医療施設や礼拝所などを放棄することはしない」と誓った。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)