平和への“雰囲気づくり”に挑戦するバチカン外交――教皇特使のモスクワ訪問(海外通信・バチカン支局)
ローマ教皇フランシスコは6月30日、バチカンで、正教会のコンスタンティノープル(現トルコ・イスタンブール)エキュメニカル総主教府使節団と面会した。この中で教皇は、「キリストの弟子として、戦争を廃絶できないと諦めて受け入れることはできず、皆が共に平和構築のために努力していく義務を有する」と述べ、「この悲劇的な戦争(ウクライナ侵攻)は、正義にかない、平和と安定に向けた道程を想定、実現するための創造的な努力を求めている」と訴えた。
この短いアピールの中に、ロシア、ウクライナ間の和平交渉に向けた調停を展開する余地がない現状を認識し、人道的視点の中心を“和平に向けた雰囲気づくり“に移行せざるを得なくなったバチカン平和外交の苦難が凝縮されている。
ウクライナ政府は、6月のキーウ訪問でゼレンスキー大統領とも会った教皇特使のマテオ・ズッピ枢機卿(伊カトリック司教会議議長、聖エジディオ共同体指導聖職者)に対し、侵略者はロシアであり、両国間に中立的な立場は許されないと説明。ウクライナは、中立を守るバチカンの調停を必要とせず、“正義にかなった和平案”とは同国の主張する和平案だと冷たい反応を示した。その一方、両国間での戦争捕虜の交換や、ロシアによって拉致された多くの子供たちの解放と帰還に関するバチカンの調停には積極的な姿勢を示した。
教皇は、こうしたウクライナ政府の対応について、同国が「欧米諸国の強い支援を得ているからだろう」と発言し、ウクライナ政府の反感を買った。欧州連合(EU)の議長国となったスペインのサンチェス首相はこのほど、キーウを訪問してウクライナへの連帯を表明。「和平交渉は、ウクライナが提唱する内容で、ウクライナが望む時に実現される」と語った。
ウクライナ侵攻では、各国からの軍事的支援が先行する状況下にある。バチカン外交は、ロシア、ウクライナ間での和平交渉の可能性が皆無ならば、その実現に向けて人道的イニシアチブを通した“雰囲気づくり”が必要と考えて総力を挙げている。
ロシア正教会モスクワ総主教区外務部長のアントニー・ヴォロコラムスク大主教は、6月15日からバチカンを訪問し、バチカン国務省外務局長のポール・リチャード・ギャラガー大司教、同省長官のピエトロ・パロリン枢機卿、教皇と次々に懇談していった。この中での話題について、バチカン側は声明文を公表しなかった。アントニー大主教は、ローマ市内にある聖エジディオ共同体も訪問し、創設者のアンドレア・リカルディ教授らと面会した。