第40回庭野平和賞贈呈式 庭野日鑛名誉会長挨拶

挨拶に立った庭野名誉会長

5月11日に国際文化会館(東京・港区)で行われた「第40回庭野平和賞」贈呈式の席上、庭野平和財団を代表して庭野日鑛名誉会長が挨拶に立った。全文を紹介する。(文責在編集部)

庭野名誉会長挨拶

「第四十回庭野平和賞」の贈呈式にあたり、挨拶を申し上げます。

庭野平和賞の贈呈式は、昨年までの三年間、新型コロナウイルスの感染拡大によって、オンラインでの開催を余儀なくされました。今年は、四年ぶりに対面形式で開催することができました。

受賞者はもちろんのこと、庭野平和賞委員会の皆さま、各界からご参集の皆さまに直接お会いできますことは、何よりの喜びでございます。

庭野平和賞は、今年で第四十回という節目を迎えました。一九八三年、ブラジルのヘルダー・カマラ大司教さまに「第一回庭野平和賞」をお贈りして以来、回を重ねるごとに広く知られるようになり、今日では「宗教界の平和賞」として評価を頂いております。

とりわけ二〇〇三年、世界各国の宗教者で構成される庭野平和賞委員会が設立されてからは、より幅広い見地で受賞者の選考ができるようになりました。

私自身、この平和賞を通して、素晴らしい活動をされている方々が、世界各地に大勢おられることを実感し、また各地域で身を賭して働く受賞者の姿に接し、深い感動を覚えると共に、多くのことを学ばせて頂きました。

庭野平和賞は、これまで三十一の個人、八つの団体に贈られてきました。

活動の種類も人権擁護、紛争調停、軍縮、核兵器廃絶、武器輸出の削減、平和教育、人材育成、地球環境保護、女性の地位向上、過激主義からの脱却、HIV/エイズをめぐる諸問題の解決など、非常に多岐にわたります。受賞者の宗教的な背景も異なります。もちろん活動する地域もそれぞれです。

しかし、受賞者の方々には、一つの共通点があります。それは、全ての受賞者が、深い愛の心、慈悲の心に突き動かされ、活動を進めてこられたということでございます。

そうした宗教的な精神に裏づけられた活動を顕彰するのが、庭野平和賞の大きな特長であると私は受けとめております。

今後も、庭野平和賞委員会の皆さまのお力添えを頂きながら、愛と慈悲の心で現代の諸課題に取り組んでいる方々に光を当ててまいりたいと思います。

そして本日は、記念すべき「第四十回庭野平和賞」を、インドで非暴力による社会活動を進められているラジャゴパールP.V.氏に贈呈いたしました。今回が初めての来日と伺っております。また本日は、奥さまもお見えになっておられるということで、先ほどもお会いしましたけれども、本当に遠路はるばる、おいでくださいました。ありがとうございました。加えて、選考にあたられた庭野平和賞委員会の皆さまに、深く敬意を表し、御礼を申し上げたいと存じます。

只今(ただいま)、贈呈理由をご紹介頂きましたが、ラジャゴパール氏は、マハトマ・ガンディーの精神を受け継ぎ、インドの農村地域に住む先住民、不可触民の基本的な生活権を得るため、インド政府との対話を求める非暴力的な行動として、大規模な徒歩行進などを農村の人々と共に実施してこられました。改めて深く敬意を表したいと存じます。

私は、こうしたラジャゴパール氏の活動に触れ、仏教の説く「地涌(じゆ)の菩薩」を思い起こしました。

「地涌の菩薩」とは、大地から湧き出てくる菩薩のことです。高い地位や権力を持っている人々ではなく、苦悩の多い現実の生活を体験する中で、仏の法を求め、黙々と精進する名もない人々のことです。仏教の開祖である釈尊は、この「地涌の菩薩」に娑婆(しゃば)世界の救いを任されました。

このことは、何を意味しているのでしょうか。

人間の現実の問題は、結局、人間自身が解決すべきものであり、誰かが救ってくれると思い、それを待っていたのでは、解決されないということであります。

自分自身が仏の心を持ち、自分の責任として、社会や国、世界が良くなるように努力する人が、大地から涌き出すように次々と現れ、連帯していかない限り、世の中の本当の調和、平和は、実現しないということであります。

ラジャゴパール氏は、まさにそうした「地涌の菩薩」を育ててこられたのだと私は受けとめています。

この世のさまざまな問題に取り組み、本質的な解決に導いていくには、遠回りのようでも人材の育成が欠かせません。特に若者は、未来への光であり、彼らが参加することによって、新たな発想を基にした創造的な展開が期待できます。そのことを通して、やがてはインドの社会も大きく変化する時が来ると信じます。

ラジャゴパール氏の経験や知見を、今後もより多くの人々にお伝え頂き、共に生きる世界に向け、一層リーダーシップを発揮してくださることを念願してやみません。

本日の贈呈式を契機として、ラジャゴパール氏の願いと行動を、より多くの人々が共有することを期待し、またご健康で、これまで同様にご活躍くださることを祈念して、挨拶と致します。

ありがとうございました。