第40回庭野平和賞 インド平和活動家のラジャゴパール P.V.氏に
受賞者ラジャゴパール氏のメッセージ
今回の受賞を機に、私は釈尊やマハトマ・ガンディーの生誕地と同じ地域に生を受けたことの幸運に、思いを致しております。釈尊の影響が広範囲に感じられるアジアでは、非暴力の思想はごく普通のことのように思われるかもしれません。しかし、私がこれまでに訪れたことのある他の多くの地域では、人々が非暴力の思想を真剣に取り入れようとしたことはなく、今も戦争と暴力が平和を勝ち取る手段であると信じられているのです。
歴史の転換点を迎え、世界は今、未知の領域にあります。そこでは人間相互の、そして人間と自然との間の平和は得難く、一方でかつてないほど重要なものとなっています。急激な軍拡競争、環境危機、常態化した貧困や差別といった問題に加え、ソーシャルメディアや情報科学の発達によってもたらされた、対処し難い分断と深い不信が存在しているのです。
庭野平和財団は、毎年、世界のさまざまな人々の活動に目を向け、彼らにこうした問題を乗り越えて平和活動を前進させる力を授けてこられました。貴財団のたゆみなき平和の取り組みに対し祝意を表したいと思います。
私は青年期にマハトマ・ガンディーに強く惹(ひ)かれ、教育を通して社会の最も疎外された人々(社会の隅に取り残された最後の一人)への奉仕、宗教間の調和、紛争解決の重要性などが持つ価値を強く意識するようになりました。1970年代に私はあるガンディー主義の指導者たちとの偶然の出会いに恵まれ、チャンバル渓谷地域のユニークな和解プログラムに参加しました。その時の成功体験によって、私は一つの確信を得ることができました。それは、「非暴力」という手段を深く理解し、エゴを交えずに正しく用いさえすれば、非暴力は世界のあらゆる場所で、暴力に満ちた状況を改善する強力な手段になり得るということです。
過去50年間、私はこの非暴力の手段を、国内のさまざまな地域の多種多様な問題に適用し、常に良い結果を得てまいりました。非暴力の信念のおかげで、私はインド全土でさまざまな活動を行い、数多くの組織を立ち上げ、国内外の市民社会で役割を担うことができました。こうした中でも特に、青少年に非暴力の訓練を行った背景には、彼らが自ら紛争を分析し、地域の現状への対策を講ずる能力を具(そな)えていたという事実があります。また、私は過去の経験から貧困、圧制、汚職などの構造的暴力に対抗することは、直接的な暴力に立ち向かう時と同等の、もしくはそれ以上の困難を伴うことも学びました。
マハトマ・ガンディーとその弟子ヴィノーバ・バーヴェから、私はある重要な平和戦略を学びました。それは「徒歩行進(フットマーチ)」と呼ばれるものです。徒歩行進は数万人の人々と共に数百キロの距離を行進し、民衆が抱えるさまざまな問題への関心を喚起し、非暴力の手段で社会改革を推進しようとするものです。私は長年の経験を通して、徒歩行進は誰にでも可能であり、また貧しい人々にとって最も実践しやすい手法であることを知りました。2019年に、私たちは草の根の問題を国連の場に提示すべく、ニューデリーからスイスのジュネーブまで11カ国を通過し、1万1000キロに及ぶ距離を歩くグローバル徒歩行進を計画しましたが、その時に用いた手法も、村民たちから学んだ徒歩行進の手法と同一のものでした。
最後になりましたが、このたびの庭野平和賞の受賞の報に対し、いま一度心より御礼を申し上げるとともに、平和で暴力のない社会の実現に向け、さらなる取り組みを続けてゆくことをお誓い致します。今回の受賞を通し、来るべき世代に思いをはせ、平和な世界の構築に挺身する人々の輪に加わることの喜びに気づかせて頂くことができました。(文責在編集部)
▼委員長=ランジャナ・ムコパディヤーヤ氏(インド、ヒンドゥー教、デリー大学東
アジア学部教授)▼庭野日鑛・庭野平和財団名誉会長▼フラミニア・ジョバネッリ氏(イタリア、キリスト教、NPO団体オ・ヴィヴェイロ・オンルス会長)▼ムハンマド・シャフィーク氏(米国、イスラーム、ナザレス大学諸宗教研究対話センター所長)▼ノクゾラ・ムンデンデ氏(南アフリカ、アフリカ伝統宗教、イカマグ協会会長)▼ソンブーン・チュングプランプリー氏(タイ、仏教、仏教者国際連帯会議事務局長)▼エイブラハム・スコルカ氏(アルゼンチン、ユダヤ教、ジョージタウン大学主任研究員=ユダヤ教研究)▼ムニブ・A・ユナン氏(パレスチナ、キリスト教、ルーテル世界連盟前議長、ヨルダン及び聖地福音ルーテル教会名誉監督)▼アルズー・アフメッド氏(英国、イスラーム、ゲノミクス・イングランド倫理部門主査)
※選考後、ランジャナ・ムコパディヤーヤ氏が退任し、フラミニア・ジョバネッリ氏が新委員長に就任した