宗教施設を空爆するミャンマー国軍(海外通信・バチカン支局)

ミャンマーカトリック教会ヤンゴン大司教のチャールス・ボー枢機卿は昨年末、「新年1月を停戦の月」とするため、「対話による問題解決を信じ、武器の轟音(ごうおん)を停止させよう」と訴えた。また、多くの紛争地域で多数の市民、特に女性や子供、高齢者たちが山間部や森林地帯に避難して、食料、飲料水、医療にアクセスできない生活を強いられている現状に憂慮を表し、「国内外の人道支援機関が、人道危機区域で自由に活動できるようにしてほしい」と要請した。

さらに、ミャンマーでの国民和解と和平実現に向けた「21世紀ピンロン連邦和平会議」に言及。「少数民族の武装勢力、軍政、国軍の代表者たちを同じテーブルに着かせ、国民間の和解に向けた道程を再設定していくように」とアピールした。

21世紀ピンロン連邦和平会議は、将来的な連邦国家構築の根幹となる合意形成を目的に、全ての紛争当事者が参加する政治対話の場として提唱されたもの。その起源は、ビルマ(現ミャンマー)が英国から独立する前年の1947年、独立運動の指導者であったアウンサンと、シャン、チン、カチンなど少数民族の代表者が、シャン州の町ピンロンで協議し、独立後の連邦国家の枠組みについて合意を成立させたことにさかのぼる。このイニシアチブは、アウンサンスーチー国家最高顧問が主導する政権下でも継続され、2015年には、国内約20の武装勢力のうち8勢力が署名した「全国停戦協定」(NCA)の発効につながった。しかし現在は、民主派勢力の武装組織「国民防衛隊」(PDF)が創設され、軍政に対して少数民族の武装組織と共闘する状況にある。ボー枢機卿は、アウンサンスーチー政権発足後に本格的に機能した同和平会議を再開すべきだと呼びかけているのだ。

しかし、ミャンマー国軍は1月12日、カレン州のカトリック教会とバプテスト教会を2機の戦闘機で空爆してボー枢機卿の言葉に応えた。カトリック教会の助祭、バプテスト教会の牧師を含む5人が死亡。国軍に空爆されたカレン州は「カレンナショナルユニオン」(政治組織)によって統治され、「カレンナショナル解放軍」(武装組織)が国軍と激しい戦闘を展開している。さらに、国軍は15日、同国北部のサガイン地方にある129年の歴史を有するカトリック教会(マンダレー教区所属)を攻撃し、廃墟とした。

アジアのカトリック系国際通信社「UCAニュース」は、2021年に起きた国軍のクーデター以降、「ミャンマーで100を超える宗教施設や聖域が国軍による攻撃の標的となった」と伝えている。また、キリスト教徒の多いカチン州では、バプテスト教会のフカラム・サムソン牧師が軍政によって逮捕(昨年12月5日)されたままだ。サムソン牧師は、カチン民族の諸宗教と政治指導者によって構成される「カチン諸民族諮問会議」の議長を務め、人権擁護の揺るぎない指導者として知られる。

カチン州では、昨年10月に「カチン独立機構」(KIO)の創設記念式典会場が国軍によって空爆され、約60人の死者が出た。国際的な研究グループである「Special Advisory Council for Myanmar」が施行した調査結果によれば、少数民族の武装組織や国民防衛隊と交戦するため、ミャンマー国軍は武器の製造と維持に関する技術や部品を、米国、フランス、インド、日本、オーストリア、ドイツなど13カ国の企業から輸入しているという。
(宮平宏・本紙バチカン支局長)